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第24話 服を買いに行く服を買う

「んー……ふふっ、たかね……」


 午後の日差しの中、プールの授業の後は眠くなるのは、妖狐も同じらしい。

 幸せそうな顔で、鷹音の隣でくーくー寝ているのは、有葉である。


 鷹音の隣の席は、もはや有葉のものであった。

 というのも、「鷹音、教科書忘れたから机くっつけよ! 」と、何かと理由を付けて鷹音の隣に座りたがるからなのだが。


「あっ……あ……ん……」

「…………」


 寝言の、雲行きが怪しくなってきた。

 はあはあと息を荒げ、時折喘ぎ越えのようなものを上げる。


(……なんて夢、見てるのよ……)


 鷹音は、真面目に自習をしながら、ちらりと有葉を見やる。

 教室内は、突然の自習にざわつき、数人を除いて、有葉の異変に気付く者はいないようであった。


 鷹音は、くるりと、開いていた教科書を丸めると、後ろから有葉の頭をひっ叩く。


「いった! なによ、良いところだったのにい! 誰!? あたしのこと叩いたの誰!? ってゆーか、夢の続きを返してよ!! 」


 きょろきょろと辺りを見回しながら、有葉が暴れる。

 有葉の行動が突飛なのは、クラスメイトにも伝わっているので、誰も気になどしていない。


 鷹音は、「うるさいわよ」とだけ告げて、有葉をもう一度ひっ叩いた。




――

「こんにちは。江口さんいるかしら? 」


 昼食の時間になって、鷹音は再びこっそり江口のクラスを訪れた。

 そして、机の上にコンビニのおにぎりを出している江口をちらりと見る。


「あ、鷺村さん? あの、ご飯食べようとしてたんですけど……」


 江口が、やや迷惑そうにそう言うので、鷹音は、持っていたピンクの包みを自分の顔の横で振ってみせる。


「あら。有葉の作ったお弁当と、あなたのそのコンビニおにぎりを交換してあげようと思ってたのだけど。そうね。そんなにコンビニおにぎりが好きなのなら、私も無理は言わないわ」

「え……」

「じゃあね、江口さん。お昼を邪魔して悪かったわ」

「いやいやいや、頂きます! ってゆーか、交換してくださいお願いします! 」


 元々、有葉のことが好きで、鷹音になって有葉を恋人にしたい欲望を持っている江口である。

 まんまと鷹音の工作に乗ってくる。


 鷹音は、にやっと嫌な笑顔を見せた。


「話が早くて助かるわ。じゃあ、美術室で一緒にランチしましょう」

「え? 七沢さんはどうしたんですか? 」


 きょとんとする江口に、鷹音はついっと詰め寄る。


「あなたのために、今日は有葉とのお弁当を断ったのよ。あなたのためなんだからね? 」

「め、めちゃくちゃ恩に着せる言い方ですね……。私は良いですけど、七沢さんが疑うんじゃないかと……」

「有葉には言ってきたもの。そういえば、何かぎゃーぎゃー言ってた気もするけど、ご機嫌を取れば、すぐ忘れるわ」

「……なんか、七沢さんが可哀想な扱いを受けている気が……」


 江口は、ため息をついて、前を歩く鷹音の後をついていった。



――

「んっ! んんっ! この唐揚げ美味しい! 卵焼きも、肉じゃがも、すごく美味しいです! 七沢さんって、料理上手なんですね! 」


 江口は、そのボブカットを揺らしながら、もぐもぐと弁当を咀嚼する。

 鷹音は、江口と交換した、ツナマヨネーズのおにぎりを頬ばった。


「当然よ。有葉は私にお弁当を作るために生まれてきたようなものだもの」

「……だから、その、ちょいちょい七沢さんのことディスるのってどうなんですか……」


 江口は、少し気を悪くしたように眉を寄せる。

 しかし、「たまにはコンビニおにぎりも美味しいわね」と、鷹音は意に介しない。


「さて、本題なんだけど」

「あ、やっぱり本題があるんですか。タダで七沢さんのお弁当を貰えるわけがないって思ってましたけど……なんの本題です? 」


 江口は、弁当を食べる箸を止めずに、聞いた。

 さすがはお嬢様学校に通う生徒なだけあって、弁当を食べながら話をしても、その姿は見苦しさを感じさせない。


「最近、ずっと考えているのよ。ねえ、江口さん。デートって、何をどうしたら良いのかしら? 」

「で、デート、ですか? 」


 江口は、視線を上に向けて、少し考えるような素振りをする。


「そう、デートよ。上手くいったら、あなたの漫画にリアリティが出るように、詳細を後日報告してあげる。上手くいかなかったら、この話はなしよ」

「そ、そこでも取り引きさせるんですね……。でも、私、デートなんてしたことないですよ? 」

「私も、まともなデートなんてしたことないわよ。だから聞いてるんじゃないの。その、漫画家としての頭脳を見込んで、相談しているのよ」

「私、プロの漫画家じゃないんですけど……。でも、そうですね。私が漫画に描くとしたら……」


 と、江口は、弁当を食べ終えると、口を拭いて、腕組みをした。


「まず、服装ですよね。七沢さんはあんまり女らしい格好はしないでしょうし、鷺村さんが白いワンピースか、淡いパステルカラーのロングスカート。トップスは、胸元が少し開いたものを選ぶと良いと思います」

「……え? 私と有葉は、ショッピングに行くのよ? 服を買うための服を買うの? 」

「当たり前ですっ! 鷺村さん、どんな格好で行くつもりだったんですか!? 」

「ユニクロのTシャツにパンツだけど? 」

「だめですだめですっ!! 」


 鷹音は、江口の剣幕に、きょとんと首をかしげた。

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