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第22話 付き合ってよ!

「鷹音……」


 有葉は、絶句した。

 手首を切るほど悩みに悩んだ鷹音。そして、今、涙を見せている鷹音。

 それが、自分たちの、婚約破棄するという『策』が生んだ、別の効果であった。


「……あなたが結婚するって聞いて、いてもたってもいられなかった。私は――私は、あなたのこと」


 と、鷹音が、涙を片手でぬぐう。


「……愛しているわ」

「……っ!! 」


 有葉が、耳も尻尾も、ぴんと逆立てる。

 それが喜びなのかどうかはわからないが、驚愕したことは確かである。


「愛しているから、こんなにも胸が痛いの。ねえ、とても苦しいのよ」


 鷹音は、そっと、有葉の手を握って、自分の胸の間に当てさせる。

 ドク、ドク、ドク、と、鼓動が有葉に伝わった。


「苦しいの。もう、こんなの嫌なのよ。嫌だから、もう誰も愛さないって、思っていたのに」


 鷹音は、顔の片側を手で覆った。

 そして、片手は、未だに胸に当てさせている有葉を放さない。


「嫌なの、こんなこと。ねえ、恋ってそんなに良いものかしら? ただ、苦しいだけだわ。苦しくて切なくて、全然良くないわ。じゃあ、皆、どうして恋をするのかしら? 私、わからない」


 胸に当てさせた腕をつかみ、鷹音はそれを、自分の胸の方に寄せていった。


「鷹音!? 」


 有葉が、驚きに声を上げる。


「抱いて。抱いてちょうだい、有葉。私、こういうことでしか、恋愛ってわからないわ。だから――」

「止めて、鷹音! あなた、今は、自分を傷付けることしか考えてないわ! しっかりして! 手首も、まだ痛いでしょ? ちゃんと消毒しないと――」

「ふふ。有葉、あなた優しいのね。私風情の人間にも、優しいのね。でもそれは、利用価値があるからじゃないかしら? 」


 鷹音は、嫌な感じで笑ってみせる。

 有葉は、自分が、鷹音に対してとんでもないことをしてしまった、と、今更ながら後悔した。


 だいたい、有葉は、鷹音が自分に対して、少なからず思いを寄せていることを知っていた。

 しかし、こんなにも鷹音が、本気の思いを持っているとは予想外だったのだ。


「……手首、消毒して、ガーゼ貼って、包帯も巻き直すから。帰ろ、鷹音」


 有葉はそう言って、鷹音の胸に当てさせられていた手を、逆に取った。

 鷹音は、子供のようにきょとんとして、それから、酷く怯えた顔をした。


「有葉、私……」

「良いから。大丈夫」


 そう言って、有葉は、にこっと笑って見せた。


「怒ってないよ、鷹音」




――


「うーん、これくらいなら、縫わなくても平気だと思うけど……あー、あたしも医術ちゃんとやっとくんだったなあ~」


 ぼやきながら、有葉は、不器用に鷹音の手首を検分する。

 鷹音の手首の傷は複数で、しかし、リストカット初心者のように浅く、何度も切っただけであった。

 どうやら本気で死のうと思ったわけではなさそうだ、と、有葉は少し安堵する。


 と、同時に、リストカットは癖になりやすい。

 嫌なことがあった時の逃避手段であるが、手首を切ると、脳内麻薬が分泌され、いわゆる『最強状態』になるのだ。

 なので、それが味わいたくて、リストカットを繰り返してしまう子は多い。


「はい、少し染みるわよ」

「……んっ! 」


 消毒液でと脱脂綿で、傷口を洗うようにぽんぽんと叩いていく。

 

 リストカットは、切る時はさほど痛みを感じない。

 脳内麻薬の分泌により、「最強状態」にあるからだ。

 だから、その後の処置の方が痛いと感じる人は多い。


「ガーゼを貼って……包帯……んーむ」


 有葉は、難しい顔をして、包帯と格闘する。

 鷹音は、不思議そうな、怪訝そうな顔をした。


「怒らないのね。私が、手首を切っても」

「んー。初犯だしね。それに、元々はあたしが悪いわけだし。それとも、怒られたかったのかしら、鷹音? 」

「……そっちの方がわかりやすいわ」


 また、鷹音は、うつむいてしまう。

 有葉は、軽く頬を掻いた。

 鷹音の自虐癖と、リストカットが連動したら、面倒なことになると思ったのだ。


「……でさ、考えたんだけど」

「……何を? 私と穏便に距離を取る方法かしら」

「ち、違うちがーう! あのさ、あたしと、デートしよう!? 」


 鷹音は、立ち上がった有葉を見上げる。

 普段、大人びている鷹音は、上目遣いになると思いの外、可愛かった。


「デート……」

「そうっ! 思えば、この街に来てしたことって、学校に行ったり、帰ってきたり、神社行ったり、とかじゃない!? 行動範囲が狭いと思うのよ! だから、デートっ! ショッピングして、ご飯食べて、健康的なお付き合いをしようって思ったのよ! 」

「健康的な……付き合い……それじゃあ、まるで、あなたと私が付き合ってるみたいじゃない」

「えっ? あたしたち付き合ってないの? 」

「えっ? 」


 鷹音と有葉は、二人してきょとんとしてしまう。

 そもそも、そこから齟齬そごは発生しているわけだ。


「あのねえ、あたしも鷹音のことが好きって言って、鷹音もあたしのこと愛してるって言ったでしょ? それって、世間一般的には両思いってやつなのよ! つまり、付き合ってる! 」

「……私と有葉は、付き合ってる……? 」

「そうよ! だから、デートなの! 」


 有葉は、にいっと笑顔を見せた。

 それこそ、健康的な笑顔であった。

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