第16話 人狼:玲朗
本日も、有葉と共に登校した鷹音の目に飛び込んできたのは、自分の席に座る……正確に言うと、両足を机に投げ出して座っているヤンキーであった。
髪は、青いメッシュを入れており、不機嫌そうにしている。
というか、男性、である。
しかし、鷹音はその姿に、見覚えがあった。
「あなた――」
「あー!! 」
鷹音が口を開く前に、有葉がその男性を指さす。
その声に、ヤンキーが振り向いた。
「……天狐・有葉……」
「そういうあんたは、狼野郎の玲朗! 」
「狼野郎じゃない。人狼の血を引く者だ」
鷹音は、驚いてしまい、立ち尽くした。
玲朗は、確かに前ボタンを全開にし、今時赤シャツを着ている、見るからにヤンキーだったが、以前までの一橋という人物は、きちんと仁義を持っている人間だったはずだったのだ。
少なくとも、学校に青いメッシュで来るような人物ではない。
そして、特徴的なのが、頭に生えている狼の耳である。
「と、いうか、謹慎が解けたら、いきなり母校が女子校になってるんだが」
「……なんでここまで付いてきたのよ」
そして、どうやら有葉とは旧知の仲であるらしい。
それに――
「一橋くん。あなた……事故で亡くなったって……それに、下の名前が違うわ……」
「ああ?……ああ、そうか。あんたは覚えてるんだな。じゃあ、俺の耳も見えてるわけだ、鷺村鷹音」
玲朗は、じろりとこちらを見やった。
鷹音は、知らずのうちに口内にわき出てきた唾液を飲み込む。
どうやら、自分は相当緊張しているらしい。
「ちょっと……どういうこと? リーダーと関係があるの!? 」
「やだ、なんで男子がうちにいるのよ!? しかもヤンキーだし! 」
「出て行ってよ! 鷺村さんに話しかけないで!! 」
遠巻きに見ていた「鷹音ガールズ」たちが、鷹音に対しての態度に、恐怖心よりも鷹音を守る気持ちが勝ったらしい。
ぞろぞろと玲朗の机を囲んで、「帰って! 帰ってよ! 」と詰め寄る。
「……なんだ、こいつら」
「玲朗。あんた、何か用事あるわけ? 後で聞くから、とりあえず自分の高校に戻ってくれる? 」
「それだ。有葉、お前、君島はどうした? 」
玲朗が、視線を鋭くして有葉を見る。
有葉は、「えーと……」と何かを思い出す素振りをする。
「ああ!君島くん!あの大人しそうな子ね! あの子なら、『元・湯ノ沢学園』にいると思う……。そっちに行けば、会えるんじゃない? うちの学校の男子と女子、あそこから交換したから」
「んだよ、交換って……じゃあ、君島は無事なんだな? 」
「無事よ。別に危害を加えたわけじゃないもん。ともかく、あんたの席は、もうないんだから、そっちに行ってよね! 」
「…………」
黙り込んだ玲朗は、がたんと音を立てて、席を立つ。
そして、小柄な有葉と、にらみ合う。
「……天帝のおっさんが面白がってんぞ」
「だろうね。で、あんたはその、一橋の体を持って、おっさんから何か言われたわけ? 」
「……まあな。……君島のところに行く」
そう言い残して、玲朗はさっと進行方向を空ける女子たちに構わず、のしのしと去って行った。
「……こ、怖かった! 」
「鷺村さん、大丈夫? あんな不良と話して……」
そんな、鷹音ガールズの喧噪の中で、鷹音は有葉に疑問を持った。
「有葉……どういうことなの? 」
「ごめん、鷹音。後で話す」
有葉にしては歯切れ悪く、そう告げると、彼女は自分の席へと去った。
「……有葉……? 」
鷹音は、そんな有葉の行動に、不安を覚える。
玲朗は、有葉のことを知っていた。
おそらく、有葉の巫女装束も、狐の耳も尻尾も、彼には見えている。
そして、何より、有葉の張った術が、彼には効いていないのだ。
鷹音は、考えた。
それに――
一橋玲朗……元の名前は玲一であったが、彼は、有葉が来る前に、事故で既に鬼籍に入っているはずだった。
「どうなっているの……? 」
鷹音は、人差し指を下唇に当てて、考える。
まるで、これでは、有葉が来たときと、状況は似ているではないか。
(彼は自分を、人狼だと言った。それは、あの狼の耳で、間違いはない。有葉と関係があるにせよ、あまり友好的な態度ではない。有葉、あなたは何を隠しているの……? )
鷹音は、思考を巡らすが、あまり有効な考えは出てこない。
それに、当の有葉に聞かなくては、何も正確な情報は得られないのだ。
(有葉は、後で話してくれると言っている。それに賭けるしかないわ)
鷹音はそう思い直し、ふうっと息を吐く。
そして、いつもは自由時間は鷹音にべったりとくっついてくる有葉が、なにやら真剣な顔で考え事をしているのを見て、不安をつのらせた。
(もし、あの男が、有葉を連れ戻しに来たとしたら……? )
鷹音は、嫌なことを想像してしまう自分に腹が立った。
腹は立つが、しかし、この鷹音のネガティブさは、もはや性格の一部である。
何か、問題が起きた時、鷹音はいつも事態を最悪な方に寄せて考えていた。
(まさか、あの男と恋仲……ということはないわよね? 有葉? )
考え込む有葉の背中を見ながら、鷹音はふつふつと嫌な方向に想像を膨らませていた。




