昨日見た夢
「首吊りマジックショーを開催します!!」
目の前のマジシャンは高らかに宣言した。
ステージというほどのステージはなく、少し広いスペースにワインレッドのクッションが映える木の長椅子が置かれているような、簡易劇場で行われるマジックショーのようだった。
実際にロープに首をかけるのはマジシャンとは別の男で、私は何故かヘラヘラと笑うその男が、その場で死んでしまうことを知っていた。
しかし、前回のマジックでもその男は助手として選ばれており、明らかに「サクラ」であった。
前回のマジックは成功し、場は盛り上がったのだが、なぜか私以外にその人物がサクラであることを認識している人はいないようだった。
「インチキだ!!」
と、不意にステージの隅にある扉から背の高い細身の男がステージに駆け込んできた。どうやらそこは控室か倉庫のようだったが、部屋の中を確認しようとすると、
「お客様、立ち入られては困ります。客席へお戻りください。」
いつの間にかマジシャンが扉の前へ立ちはだかり、見ることはできなかった。
ついにマジックショーが始まろうとしていた。
私はサクラであるその人が死ぬ瞬間を目の当たりにするのが怖かった。ショーが始まった瞬間、私はぎゅっと目をつむり、耳をふさいだ。
悲鳴のようなどよめきと
バッタン
という大きな音がした。
おそるおそる目をあけると、そこには底の抜けた床と、上から垂れ下がるロープがあり、ロープの先には結ばれてぶら下がっている大きな青い布袋があった。中に何が重たいものが入っているのが分かった。ステージからは、マジシャンも姿を消していた。
気持ちの悪い沈黙だった。
布袋は、大人一人が入っているくらいの大きさで、ゆらゆらとゆれており、不気味さを演出していた。
マジシャンは抜けた床から階下へ落ちたようで
「いてて・・・あいつは・・・」と小さくつぶやく声が聞こえ、階段を上がってくるのが見えた。
私は控室に入って調査をすることにした。
犯人を捜さなければ…。
犯人を見つけて殺人事件の謎を解かなければ、この劇場から出ることはできない。
まだ遺体は出てきていないのに、何故かそう確信していた。
控室には色とりどりの柄がついた先のとがったナイフがコルクボードに下げてあったり、フラフープのようなものが立てかけてあったりした。
どれもマジックの演出に使われるものだろうし、どれも凶器になるような気がした。
ステージの方が少し騒がしくなった。
どうやら階下から上がってきたマジシャンがロープに下がっている袋をあけるらしい。
私がそこにたどり着くと、もう青い布は取り払われていて、そこには死体がぶら下がっていた。
壁のタペストリーには血が飛び散っていたし、遺体の損傷も少なからずあるようだった。
不規則に左右に揺れるソレは、さっきまでヘラヘラと笑っていたあの人。
これは脱出ショーだから本物のはずがない。
繰り返される物語のフィクションなのだから、と根拠の無い言葉を自分に言い聞かせても、その惨状はとてもリアルで怖かった。
死体がまばたきをした。ようにみえた。
目をよく見ると、目は青緑色になっていて、上下左右に不規則に動いた。
――――――ここで、怖くなって目が覚めた。
真っ暗な部屋でぼーっと私は先ほどの光景は夢だったのかと安堵した。
――――――もう一度
どうやら、謎を解いて劇場から脱出したらしい。
真っ白な壁が作り上げている廊下を歩くと、白塗りの木で作られた扉があって、その扉の前には女の人が経っていた。
「また、入るの?謎を解かないと出られないわよ?」
「また、誰かが死ぬみたいな言い方ですね?」
「どうかしら?」
女の人は少し笑ってその場を去った。
私は怖くなって、その扉を開けるのをやめた。
私はそこで思い出した。
私がさっき遭遇した殺人事件の劇場へ入る前にも
同じ女性に同じ言葉を、言われたことを。