影の中
無事に3人分のお弁当作りが終わり、解体のための魔物も数体出した。着替えもして出かける準備は万端だ!
「9時20分か。そろそろ家を出てもいい頃だね。」
時計を確認して、出口まで向かう。靴を履いて振り返り、留守番の3人に声を掛ける。
「それじゃ、行ってくるから留守番よろしくね?」
「あぁ、気をつけてな。」
「おう!任せとけ!」
『うん、いってらっしゃーい!』
ナイト、スピネル、クア、それぞれの返事を聞いて、改めて「行って来ます。」と言って家を出る。
お気づきだろうが、留守番組にクアが加わる事になった。理由は、解体で出るいらない部分の処理係だ。
ナイトに、「クアがいる方が、作業がしやすい。」と、言われ留守番をお願いした。
あ!ちなみに魚はスピネルとクアのお弁当に入ったよ!3等分にしようとしたんだけど、ナイトが残ってくれたお礼にってクアに譲ったのだ。自分が残ってもらうよう言ったからって律儀な子だよ。
さて、行くとしますか。
外に出た私は、獣姿のベリルに乗り、右肩に小さくなったフローラ、左肩に小鳥の姿のウィーナが乗ったのを確認し出発。到着まで約30分。他愛ない話をしていたが、ふと気になることを聞いてみた。
「そういえばさ、影の中ってどうなってるの?」
自分で影に入る事は出来ないし、中を見ることも出来ないので、気になっていた。
「影の中ですか?そうですね…。最初に入った時は、女神と会った場所のように白い空間でした。」
そう答えてくれたのはベリル。
「白いんだ…。」
影の中だから、黒い空間なのかと思ってた。
そう思っていると、次に聞きたかった事をベリルが続けて話してくれる。
「ですが、外の景色を見たいと思えば、すべての壁が外の景色になります。」
「ん?すべてってことは後ろも見えるってこと?」
「はい。見えます。とはいえ、シズクが見ることができる範囲だけのようですが。」
詳しく聞くと、部屋は四角で、床以外は景色が映る。ただ、私の目で見た物を映す、というよりは、私を中心とした景色が見えるようだ。
まぁ、目で見たものが映るなら、あっちこっち見るのに視線を動かしてる時とか、映るものがささっと変わるから、ゆっくりなんて見れないだろうし、何より酔いそうだな。
そんな事を思い、自分ならイヤだなと、心の中で苦笑する。
内心は下らない事を考えていただけだけど、黙っていたから、何かを真剣に考えていると思われたのか、ウィーナが遠慮がちな声で話しかける。
「ねぇ、シズク。影の中のことなんだけど…。」
「ん?どうしたの?」
そう言いながら、肩にいるウィーナの前に指を出し、おいでと合図を送ると、ウィーナは指に移動した。ウィーナと視線が合うように手を動かし、ウィーナが話を続ける。
「影の中に家具を置きたいんだけど、いい?」
「家具?」
「そう、何もないんだもん。ずっと立っているのも疲れるし、座るならイスとかソファーに座りたい!それが無理ならカーペットくらいは欲しいの!」
最初は伺うように小首を傾げ、遠慮がちに聞いていたウィーナだが、後半になると、羽をバタつかせながら、必死に要求している。
確かに、外の景色を見られるとはいえ、何もない空間に何時間もいるのは、肉体的にも精神的にも参るかも…。
「分かった。余っている家具もあるし、使っていない物なら好きにしていいよ。」
「ホントに!?ありがとう、シズク!」
羽をバンザイするように上に上げ、とても喜んでいる。
そんなウィーナが可愛くて、ウィーナの頭を撫でる。ウィーナもご満悦で、何を置こうかなっとウキウキしているようだ。
ウキウキ状態のウィーナはさらに可愛いが、ここであれ?と疑問が浮かぶ。
「でも、影の中に持って入れるものなの?」
私の疑問に、待ってました!と言うように、「それなら、大丈夫よ!」と、ウィーナは自信満々に答える。
「実は、影の中に板みたいなのが浮いててね。触ってみたら、色々文字が出て来て、その中にソファーとかの家具もあったの!」
ん?浮いてる板?
「その板って、私がアイテムボックスの中を確認してる時に出てるものと一緒?」
そう聞くと、ウィーナは首を傾げる。
「見たことないから分からないけど、多分そうだと思う。」
「え?見たことないって、みんなには見えてなかったの!?」
「何もない所を見てたり、指で何かしてる時の事でしょ?何かしてるのは分かってたけど、見えてはないわよ。」
そうだったの!?てっきり見えてると思ってた…。
この子たちに見えてないって事は、たぶん他の人も見えないよね?
うわー、人前では気を付けないとな。絶対に変な人だと思われるよ…。
あれ?でも魔王一行が来た時に、何回も画面見てたけど、とくに何も言われなかったような…。
ダリアナに収納空間持ちの人は中身が見えるのか聞いてみようかな?
「画面…板が見えないなら、アイテムボックスに出し入れしてる時はどう見えてるの?」
「え?えっと、入れる時は黒い穴が空いて、出す時は白い光から出ているように見えるけど…。」
「あ、そこは見え方一緒なんだね。」
ウィーナが答えてくれたように、収納する時は黒い穴が空いて、収納したいと思えば物が消える。出す時は出したい物と出す場所を思えば、白い光の中から出て来るようになっている。
「本人しか使えないから、他の人に中身が分からないようになってるんだろうけど、影の中にあるのはなんでだろ?」
「さぁ?影もシズクの身体の一部だからじゃない?」
「あーやっぱりそう思う?元々ゲームで影に入れるなんてなかったし、シアが気を使ってくれたんだろうね。」
まぁ、契約してる子たちしか入いれないから、盗まれる心配もないし、もう解決ってことでいいや。




