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魔王様と初通信

クアの魔法の練習をしている間、スピネル達は作業に戻り、日が暮れるまでに6匹の解体が終わった。


それから、予定通り準備していた魚のフライを揚げ、お疲れ様の意味を込めて、今回解体したお肉をステーキにして夕食に出し、食後はソファーに座りみんなでゆっくり過ごしていた。


「でも、クアが魔法使えるなんて、びっくりね!」


穏やかな空間に、ウィーナの弾んだ声が響く。それにフローラが頷き、不思議ね、というように頬に手をあてる。


「そうですね。魔石を食べて魔法が使えるようになるスライムなんて、私たちの世界にはいませんでしたから。」


フローラの言葉に、うんうん、とみんなで頷く。


「そうだね。ゲーム…、みんなの世界とも、まだまだ違う所があるかもしれないね。」


「おう!楽しみだな!」


と、スピネルは子供のようにはしゃいでいる。


そんなまったりと過ごしている中、通信中の画面が目の前に表れる。


ダリアナかな?と名前を見ると、魔王という文字が目に入った。


「え…。」


体が一瞬フリーズし、理由もなく焦る。


魔王から…。え、なんで?私何かしたっけ?


考えても心当たりはない。それに少し安堵し、先程の焦りが徐々に消えていく。

でも、現に通信が来てる。ということは、何か話があるということだ。


うーん、魔王からの通信…。多分、明日の事だよね?


なんだろう?と今だ通信中と出ている画面を凝視する。

そこでふと我に返った。そう通信中なのだ。まさに今、魔王と繋がっているということを思い出し、慌てて通信装置を取り出し、「はい、シズクです!こんばんは!」と少し大きめな声で挨拶をする。


慌てて出た私に対し、魔王は「あぁ。…寝ていたか?」と落ち着いた声で話しかける。


少しの時間とはいえ、すぐに出なかったから怒ってるかも、と思ったけどそんな様子はなく、ホッと胸をなで下ろす。


「あ、いえ…。ちょっとびっくりして…。あはは…。」


曖昧な返答にはなったが、それが事実だし、何かをしていて遅くなったと誤魔化すのは気が引けるので素直に答える。


「?なぜ驚く?魔石を交換したのだから、私が通信しても不思議はないだろ?」


「え?えーと、それはそうなんですけど…。」


なんて言えばいいのか…。聞かれると、なんか困るな…。


「えっと。魔王様は、魔族の中で1番偉い人ですから、一般人の私が気軽に通信してもいいのかなって思っていたので、実感がないというか…。」


うーん、なんだろ?うまく言えないけど、そんな感じなんだよな…。


だってさ、魔王だよ?

もし私が、普通にヒューマンとしてこの世界に産まれてたら、関わることなんてないだろう人だよ?


そんな人と知り合えただけでもすごいのに、いつでも通信出来るんだよ?

もう、すごい通り越して、少し怖いよ…。魔王を慕ってる人達からしたら、なんでお前みたいな奴が!ってなりそうだし…。


「そんなことか。お前は女神の加護を受けた唯一の者だ。それだけで私より価値があるのだから、気にすることはない。」


そう言われてもな…。

私自身は普通の一般人だし…。


「でも、女神様が加護をくれたのは、私たちがリシアの森に住めるよう理由を作ってくれただけで、深い意味はないと思いますよ?それに、加護がなくても入れる魔王様やドラゴン達の方がすごいと思います。」


「私たちにとっては生まれた場所だからな。帰巣本能が働いているんだろう。だが、理由はなんにせよ、女神がお前の事を信頼しているのは間違いないだろうな。」


「信頼、ですか?」


「あぁ。知っての通りあの森は特別な場所だ。女神が信頼していない者を入れることはまずない。だが、お前は入るどころか住んでいる。それだけで、女神がどれだけお前の事を信頼しているか分かるだろう?」


うーん、でも信頼されるようなことしてないんだけどな…。


「そうなら嬉しいですけど、私が女神様に会ったのは1度だけで、とくに信頼されるような何かがあったわけではないですよ?だから、信頼してくれていたとしても、なぜかが分からないので、正直戸惑いますね…。」


「そうか…。だが、素性も分からない者に加護は与えないと思うのだが…。

女神に会った時、何かなかったか?」


「何か、と言われても…。」


シアが私を信頼するような何か、か。…うーん、なんだろう?

あの時はただ話をしただけだしな…。


………あ!そういえば


《それは、シズクさんが眠っている間に記憶を拝見したからです。その際に、シズクさんの事を色々と知ることが出来ました。》


って言ってたな…。なら、シアが重要だと思う事は分かってるってこと?


「あの、女神様に会う前、私眠っていたみたいで、その時に記憶を見たって言ってました。」


「記憶を?では、記憶を見ての判断か…。……まぁいい。女神は、お前がこの世界に害の無い者と判断したのだろう。」


「害ですか?それはどういう類のものでしょうか?」


「そうだな…。異世界から来た者、勇者や賢者、聖女と言われる転移者の中には、自分の力を誇示するために必要のない争いをしたり、自分は特別な存在だからと、国の予算を無駄遣いしたり、民を不当に扱う者もいたようだ。力を持つことで、何をしても許されると思っていたのだろうな。」


「力ですか…。あの、転移者の人は、皆何かしらの力を持ってこちらに来るんですか?」


「あぁ。女神から、1つだけ望む力を与えられると聞いているが…。お前もか?」


「え?えっと…。」


あれ?どうだったっけ?

えっと、力で言えば、ゲームと同じものを使えるようにしてくれたけど、それはシアからの提案だったよね?


うーん…。あー、もしかして、私の場合は日用品や調味料、食材がそうだったのかな?


「えっと、多分ですが、生活に必要な物を不自由なく使えるようにしてくれました。以前のシャンプーとかがそうですね。」


「あぁ、あれか。では、魔法は元から使えたのか?」


あ、魔法のこと隠したみたいになったかな…。


「いえ、魔法も女神様が使えるようにしてくれました。えっと、女神様からの提案だったので、私が望んだ力とは違うかなっと思ったんですが…。」


「女神からか…。本当に随分と気に入られているな。あれは誰かを特別扱いなどしないと思っていたが…。」


「え?」


「いや、なんでもない。気にするな。」


気にするなって、逆に気になるんだけど!


「それより、本題だが。」


え、急に!?


明日(あす)、こちらに来ると聞いたが、時間は決まっているのか?」


「はい、10時に待ち合わせしています。」


「…昼食は街で食べるのか?」


「?はい。おすすめのお店を教えてくれるって言ってたので、街で食べると思います。」


「そうか。では、夕食は?」


?なんでそんなこと聞くんだろ?


「えっと、明日次第ですね。気になるお店があれば、そこで食べるのもいいかなって思っているので。」


「……。」


あれ?返事がない。どうしたんだろ?


「あの、何かありましたか?」


「いや、なにも…。」


??なんか声のトーンが下がったような…。

怒らせた?え、なんで?


困惑し、どちらも声を出さないまま数秒。さて、どうしたものか。と悩んでいたが、先に声を出したのは魔王だった。


「…次とはいつだ?」


「え?次ですか?」


えっと、次はいつ来るのかってこと?明日行くのに、もう次の予定?

いや、でもそれなら「次はいつだ?」って聞くような…。

………。あ!


「あの、次っていうのは、この前、食事は次にって言ったことですか?」


「そうだ。」


なるほど、そうなのか。あれは、社交辞令的な事だと思ってた…。


魔王からしたら、あれは約束したってことだったのかな?


「えっと、ごめんなさい。確かに、次にとは言いましたけど、ホントに誘ってもらえるとは思っていなくて…。あの、確認なんですが、魔王様と一緒に食事をするってことですよね?」


「あぁ。」


「そうですか…。」


うーん、どうしようかな。と、迷いつつ、ちらっとウィーナに目を向ける。


前は、ウィーナが帰りたがったから断ったけど、あれは泊まるとか、急に決まったから機嫌を損ねた部分もあっただろうし、前もって言っておけば、みんなも納得するかな?それに、だらだら先延ばしにするよりはいいだろうし。


「分かりました。昼食はダリアナと約束をしているので、夕食でもいいですか?」


「!あぁ、構わない。」


「えっと、それじゃ時間はどうしますか?」


何時(いつ)でも構わないが…。そうだな。街から戻る前にでも連絡してくれ。準備させておく。」


「分かりました。連絡しますね。」


「あぁ。では、明日(あす)。…おやすみ。」


「はい。おやすみなさい。」

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