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ザハゴの国

「いつになったら、魔王を討てるのだ!」


玉座に座り、声を荒げているのは、ザハゴの王ボーロ。

肥え太った体。指や首元はもちろん、服にもゴテゴテとした装飾品や宝石を数多く身につけ、自分は絶対的な存在なのだと全身で主張している。


「申し訳ありません。ですが、まだ召喚には魔力が足りないのです。」


その王に(ひざまづ)き話を聞いているのは、臣下の一人である魔術師長、イザエル。魔術師らしく黒いローブを着ているが、長を勤めているわりに見た目は若く30代程に見えるが、年は70を超えている。

そんな彼は、「またか…。」と内心ウンザリしながらも、それを表に出すことはない。


「なら、もっと(にえ)を増やせ!役立たずが!」


「…しかし。これ以上魔術師を失えば、国の戦力が落ちてしまいます。」


「ふん!それなら国民で魔力の高いものを贄にすればいい!…いや、奴隷共を贄にすればいいじゃないか!微々たる魔力だろうが、魔族共も役にたって死ねるなら本望だろう。」


良いことを思いついた、と愉快そうに王は笑う。


ほとんどの国が奴隷制度を撤廃する中、ザハゴには今だ奴隷制度が強く根付いてる。

口減らしなどで親に売られた者、借金が返せなかった者、誘拐された子、奴隷として売られる者の多くはこれに当てはまる。奴隷の多くはヒューマンだが、魔族の奴隷も少なからずいる。


なぜ、力のある魔族を奴隷に出来るのか?それは、まだ力の弱い魔族の子を誘拐していたからだ。だが、それは昔の話。今では魔族たちも警戒し、誘拐することは難しくなっている。

だからといって諦める奴隷商ではない。魔族は高く売れるのだ。連れて来れないなら作ればいい、と今では奴隷同士で子を産ませることが増えている。

そして、子供のうちから痛みや恐怖を与え、逆らえないように調教するのだ。


ただ、奴隷として育てられる子供たちは、大人になっても魔力が低い。

なぜかって?魔力は誰にでもあるもの。でも、魔力量を増やすには魔力の扱い方を知る必要がある。普通は親などが教え、遊びや日常生活に使って伸ばしていく。でも、奴隷に力を持たせる馬鹿はいないし、奴隷は魔力より体力が重視される。そのため、わざわざ魔法について教える者はいない。


「…陛下。お言葉ですが、奴隷を贄にしたところで足りるかどうか…。それに高価な奴隷を大人しく手放すでしょうか?」


「ふん!王の(めい)を聞かぬ愚か者など、この国にいるはずがない!…だが、もし逆らう者がいたなら、それは反逆罪だな。……あぁ、そうだ。そんな愚か者が居たなら、そやつも贄として使えばいいじゃないか。」


またも名案を思いついた、と王は満足そうに笑っている。

だが、そんな王にイザエルは呆れからか、苛立ちからか、舌打ちしそうになるのを(すん)でのところで()える。


「……かしこまりました。応じた者たちへの対価はどういたしますか?」


「対価だと?王の命を聞くのは国民の義務だ。そんなもの必要ないだろ。」


当然だろ?と、ニヤニヤと見下すように言い放つ王に、グッと怒りを抑え、内心とは裏腹に「その通りですね。」と同意の笑みを浮かべる。


これ以上ここに居ては、何を口走るか分からないと判断したイザエルは、早く退室しようと話を切り上げる。


「では、私はこれで失礼させていただきます。陛下の命は一刻でも早く、国民に伝えねば。」


迅速に行動に移そうとするイザエルに、王は機嫌を良くする。


「あぁ、良い働きを期待しているぞ。」


最後に王の言葉を聞き、一礼した後、イザエルは部屋を出た。


しばらく歩き、魔術師たちが所属する建物へと帰ったイザエルは、部下たちに王の命を通達するように指示を出し、自室と化した研究室へと姿を消す。


部屋のあちこちに、本や紙の束、魔石などが乱雑に置いてあり、一見ゴミ屋敷のようだが、イザエル自身はどこに何があるのかを把握しているし、仕事机と来客が来た時のための席の周りは整理しているので、それ以外の場所が汚く見られようと気にしていない。


イザエルは仕事机に近づき、バンッ!と机を叩き、溜めていた言葉を吐く。


「あの豚王が!こっちの苦労も知らず、何が期待しているだ!贄を出さずとも魔石を集めれば済む話だろ!」


国民の命をなんとも思わない王に怒りが込みあげる。

召喚には、膨大な魔力が必要だ。それは、イザエルも分かっているが、人が贄になるのは最低限でいいとも思っている。

魔石を集めれば、その分贄の数は減らせる。だが、それを買う金を王は出すつもりがないのだ。


『人を贄にすればタダで済むのに、なぜわざわざ金を出す必要がある?』


以前そう口にしていた王に、それでは多くの国民が贄になり、税収がままならなくなる、と伝えると渋々金を出したが、微々たる物だ…。欲しい魔力の3分の1も集まらなかった。

それ以降も工面してもらおうとかけ合うも、今日のように「贄を出せ!」としか言わない。

少しでも犠牲を減らそうと、援助してくれそうな貴族に頭を下げ、金を集めたり、魔術師や騎士団の訓練と表して魔物を狩り、魔石を集めているが、見立てではまだ4分の1ほど足りない。

勇者召喚の計画が始まり、5年…。色々理由をつけ、時間を伸ばして来たが、そろそろ王の我慢も限界のようだ…。明日にでも儀式をすると言いかねない。


おそらく王や重役たちは、自分たちに逆らう者や、都合の悪い者たちも贄にしようと企んでいるのではないか、とイザエルは考えている。

今の所、魔術師数人と、罪人が贄になるのは確定している。何かと理由をつけ、邪魔な者は罪人として贄にすればいいと思っているに違いない。


「1つでも多く魔石を集めなければ…。」


1人でも多く、犠牲を減らすために…。 


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