お邪魔します。②
ソファーに座った魔王は優雅にお茶を飲んでいる。お菓子や軽食には手をつけないので、お腹は空いてないみたいだ。
しーんとした空間。誰も口を開かず、聞こえるのはカップのカチャッと鳴る音、服の摩れる音や息使いくらいだ。
座ったという事は仕事が一段落したのかな?
……さて、魔王は何も話さないし、どう切り出すべき?スパッと「お世話になりました。さようなら!」…って帰っていいかな?
でも、座ってすぐに帰るのも変な気がするし…。うーん、何か話をして頃合いを見て帰るのが無難かな?…でも、何を話せば…。うーん…。
「…えっと。……いい天気ですね。」
「?…あぁ。」
魔王は私に目を向けたが、急になんだ?と疑問を浮かべているようだ。
困った時にはまず天気の話から。…と思ったけど、やっぱりと言うべきか会話にならない…。次は…。
「…えーと。……あ!仕事!お仕事大変そうですね!魔王様ってどんな仕事してるんですか?」
……今の私の笑顔は多少引きつってるだろうなぁ…。仕方ないじゃないか。沈黙は辛い。というか、いたたまれない…。
魔王は魔王で、なぜそんなことを聞く?と、私の心境を理解してくれないし…。
いや、そもそも気まずいとか思ってないのか?私はいないものと思われてるんじゃ…。……まさか、ね?
……でも、そうだったら寂しいな…。
そう思っていたら、無意識に言葉が出た。
「……なんで私を呼んだの?」
「…どうした?何が言いたい?」
え?言いたいこと?……あれ?…さっきの、声に出てた?
カップに向けていた視線を上げると、魔王と目が合う。
その目は思いのほか真剣だった。
聞いてやるから言え。そう言っているようだ。
あっ、と言葉に詰まる。言いたいことがあるわけじゃないし、魔王が私を呼んだ理由なんて、シアに頼まれているから様子見、もしくは監視的な意味合いだろうし…。
……素直に寂しいと思った、なんて言えないし…。
そんなこと言ったら絶対、は?ってなるじゃん!
「あ、いや…。えっと…。」
何て言えば…。…そもそも、なんで寂しいなんて思ったんだろ?
反応が薄いだけで、無視なんてされてないし。気まずくは思っても、寂しいと思うような事なかったはずなのに…。
自分の思考に混乱した。目を泳がせて必死に考えるけど、うまい返しが見つからない…。
コンコン。
言葉にならない声を発していると誰かが扉をノックした。
その音に魔王の視線が外れ、少し肩の力が抜ける。
「陛下。追加の書類と資料をお持ちしました。」
声からして訪問者はベトラーのようだ。
魔王は、はぁーとため息を吐き、不機嫌そうに許可を出す。
「……入れ。」
「失礼します。」と入って来たのはやっぱりベトラー。
私たちの存在に気づき嫌そうな顔をするも、すぐに魔王に視線を向け、持っていた紙をテーブルに置く。
「こちらが追加の書類です。こちらにはサインを。それとこちらにも目を通しておいてください。」
真面目に仕事の話をしている2人。
話が逸れたことで緊張から解放された。安心したからか喉の渇きに気づき、少し温くなったお茶を飲みほし、ほーと小さく息を吐く。
空になったカップをテーブルに戻すと、ラーナが「おかわりをお入れしますか?」と聞いてくれた。
少し悩み、首を横に振る。魔王たちの邪魔にならないよう、ラーナに聞こえるくらいの小さな声で話した。
「ありがとう。でも、もういいかな。魔王様も忙しいみたいだし。そろそろ帰るよ。」
そう言うと、ラーナは困ったと言うように笑い、眉を下げる。
「…もう少しゆっくりされてはいかがですか?お菓子もまだありますよ?…お暇でしたら何か…。あ、そうです。本をお持ちしましょうか?」
そして、どうやら私を引き止めようとしている…。なぜ?
「ううん、本はいらないけど…。」
「…そう、ですか…。」
断るとしゅんと落ち込むラーナ。立っていた耳もへにゃりと垂れる。
えっ!?私、何か悪いこと言った!?そんなに落ち込むこと言った!?
「えっと、なんで落ち込んでるか分からないけど、元気出して!」
「…では、もう少しこちらに居てくださいますか?」
「え?それ、何の関係があるの?」
?を浮かべそう聞くと、立ちかけていた耳がまた下がる。
「あ…、分かったから!居るから!落ち込まないで!」
「…ふふふっ。はい。ありがとうございます。」
笑顔のラーナにホッとする。…が、いったい今のやり取りは何だったのか…。もしかして…はめられた?…でも、そんなことして何の意味が?
「ねぇ?どうして、引き止めるの?」
「さぁ?なぜでしょうね?」
分からないから聞いているのに、ラーナは微笑ましいというように笑いかけるだけで、答えてはくれない。
約2ヶ月ぶりの更新です。どんどん更新が遅くなっている…。でも頑張って書きたいという気持ちはあるので、これからも読んで頂けると嬉しいです!