お邪魔します。①
ラーナの案内で一つの扉の前に来た。どうやらここに魔王がいるようだ。
いいですか?とラーナが目配せし、それに頷くとコンコンとノックをする。
「ラーナでございます。シズク様をお連れしました。」
「入れ。」
扉越しで聞こえづらいが魔王の声だ。
入室の許可を取り、「失礼いたします。」と言ってラーナは扉を開け、私たちに入るようたくした。
私は「お邪魔します。」と言って部屋に入り、ナイトも続く。
ラーナは部屋に入ることなく一礼し、どこかに行ってしまった。
部屋にいたのは魔王だけで、彼は机の上に積まれている書類?だろうかに書き込んだり、判を押したりと忙しそうだ。
入ったはいいものの、どうすればいいのか分からず、突っ立ったままじっと魔王の手元を見る。とはいえ、私はまだ部屋に入って数歩の位置にいる。魔王は部屋の奥にいるので、距離があって何が書いてあるのかは分からない。
あの山が終わるまで待たないといけないのかな?
と、机に積まれた紙を再度見て、時間が掛かりそうだと内心ため息を吐く。
それと同時に魔王は顔を上げ、目線が合った。
ビクッ
もしかして、ため息出てた?と内心ヒヤヒヤだが、笑ってごまかすことにする。
「…座れ。そのままいられると気が散る。」
そう言って魔王は部屋の中心を顎で指す。そこには、2つの長椅子とテーブルが置かれている。
「え?いえ、あいさつをしに来ただけなので…。すぐに帰りますよ?」
仕事の邪魔をするのは悪いし、あいさつして早々に出て行こう。
そう、私なりに気を使ったつもりだったのだが、魔王は眉間にシワを寄せさっさと座れと無言のプレッシャーを放っている。
え、なんで?私、気に障ること言った?
仕事中でしょ?忙しいんじゃないの?私たちがいたら邪魔でしょうに…。
なぜ気分を害したのか分からず、今だに立ったまま戸惑っていると、誰かが扉をノックする音が聞こえた。
「ラーナでございます。お茶をお持ちしました。」
ラーナ!よかった、戻って来てくれた!
ナイトが居るとはいえ、知ってる人の声を聞くと安心する。
それに、どうすればいいのか分からないこの状況も、どうにかなるかもしれない。と、助けを求めるように扉を見る。
「…入れ。」
と魔王が再び許可を出し、ラーナは先ほどと同じように「失礼いたします。」と一礼し、ワゴンを押して部屋に入って来た。
ワゴンには、ティーセットと焼き菓子や軽食が乗っているようだ。
私はラーナが入るのに邪魔にならないように道を開けた。
そんな私にラーナはあら?と不思議そうな顔をしている。私はどうしたの?とラーナを見返す。
数秒後。
「…早く座れ。」
互いに見つめ合う私たちに、魔王が痺れを切らしたようだ。
「えっと…。」
「シズク様、こちらへ。ナイト様もお座りください。今、お茶をお入れしますね。お菓子も焼きたてですよ。」
「…あ、はい。」
ラーナはニコッと笑い、私の手を取り席まで引く。
これは座るしかないと諦め、大人しく腰を下ろした。
いいのかな?お茶とお菓子って、ただ単にゆっくりしろってこと?
それとも、何か裏があるの?じゃないと、忙しのに長居させる必要なんてないよね?
と、そんなことを思っている間に、ラーナはテキパキと動き、3人分の飲み物などがテーブルに並べられ、紅茶や焼き菓子のいい香りが部屋に広がる。
……まぁ、せっかく用意してくれたんだし、美味しそうだし…。
うん、成るようになるさ!
「ナイト。こっち、一緒に座ろ?」
奥に身体をずらしながら言い、空けたスペースをポンポンと軽く叩いた。
ナイトは部屋に入ってから、扉横の壁に背を預け、腕を組んで私たちの様子をただ見ていた。ラーナが声を掛けてからもそれは変わらない。
「…いや。俺はここでいい。」
「え?でも…。せっかく入れてくれたのに…。」
「…今は、欲しくないんだ。すまない…。」
少しバツの悪そうな顔をして、軽くラーナに頭を下げ詫びを入れた。
そんなナイトにいいえ。とラーナは首を横に振る。
「お気になさらず、先に確認するべきでした。…では、必要な時はお声掛けください。」
そう言って一礼し、ラーナは壁際に移動した。すべての準備が出来て、次に声が掛かるまで待機するようだ。
そして魔王は席を立ち、こちらに来て私の目の前の席に座った。