翌朝。
チュンチュン。チュンチュン。
と、鳥の鳴き声が聞こえる。
部屋には、柔らかい日の光が差し込み、眩しさに一度目を強くつぶり、腕で目を覆う。
んー、朝?起きないと…。でも、もう少し。
…………………あれ?なんで鳥がいるんだろ?結界内に動物はいないはずなのに…。
不思議に思い、寝ぼけながらとりあえず上半身を起こす。1つあくびをして、んーと体を伸ばした。
ぱちぱちと数度瞬き、ぼーとした頭で思い出す。
……あ、そうだ。ここは森じゃなかった。
周りを見るとまだみんな寝ている。
起こさないようにゆっくりとベッドから下り、ベランダに出ると近くの木に小鳥が止まっていた。さっきの鳴き声はこの子みたい。
「こんな朝は久しぶりだな…。」
こちらに来てからは、鳥のさえずりで起きることはなかった。結界内にいないのだから当たり前だけど、懐かしく心地いい目覚めだ。
深呼吸を数度。朝の気持ちのいい空気を体いっぱいに吸い込む。
確認し、安心したことで少し力が抜ける。
シズクは微笑ましく小鳥を見ていたが、少しして小鳥は飛び立ってしまった。
残念に思いながらも部屋へ戻ると、スピネルとクア以外はすでに起きていた。
「おはよう。」
朝のあいさつをすれば、「おはよう。」「おはようございます。」とそれぞれ返してくれる。すっかり日常になった光景だ。
ちなみに、スピネルとクアは私の身支度が済む頃に強制的に起こされるのだが、これもまたいつも通りだ。
「ねぇ、いつ帰れるの?」
ご飯の前に久しぶりに畑の収穫をしていると、ウィーナがそう聞いて来た。
「ラーナが来るって言ってたけど、そう言えばいつ来るかは聞いてないや…。」
「…そう。」
少し不服そうな顔をして、ふいっと顔をそむけると、ウィーナは作業を再開する。
どうやら、まだ魔族に対する怒りは収まっていないようだ。口には出さずとも早く帰りたいのがありありと分かる。
「ウィーナ、森に帰ったらお菓子を作ろうと思うんだけど、何がいい?」
「え?………。プリン…。」
「オッケー。楽しみにしててね!」
急な話に不思議そうだけど、心配してくれたお礼とご機嫌取りを兼ねてウィーナの好きな物を作ろうと思ったのだ。
とはいえ、すでに少し機嫌が良くなっている。ウィーナ…、口元が緩んでるよ。
収穫が終わり時計を見ると、7時半過ぎ。
ラーナがいつ来るかは分からないけど、お腹が空いたので朝ご飯は食べる。
食べている途中で来ても待ってくれるだろうと思ったが、待たせるのも悪いので出来るだけ早めに食べ終えた。
……のだけど。結局ラーナが来たのは10時くらい。残念ながら急ぐ必要はなかった……。
コンコンと戸を叩く音がして、「はーい。」と答え戸を開ける。
「おはようございます。お迎えに上がりました。」
「あ、はい…。おはよう、ございます…。」
私の姿を確認するなり、お手本のような綺麗なお辞儀をするラーナに少し戸惑い、変な挨拶を返してしまったが、ラーナはニコリと笑うだけだった。
「魔王様がお待ちです。仕度はお済みでしょうか?」
「あ、うん。大丈夫だけど…。…二人の時は普通に話すって言ったのに…。どうして敬語なの?」
少しムッとして言うと困った顔をするラーナ。
「ごめんなさい。外では誰が見ているか分からないから…。魔王様のお客様に馴れ馴れしく話しかけるわけにはいかないの。」
…確かに。ラーナは今仕事中だし、魔王の命で来ているのだから仕方ないのかもしれない。
「…分かった。無理を言ってごめんなさい。」
「いえ。では、参りましょうか。ご案内いたします。」
私が家から出るのを待って、ラーナが歩を進める。
私はお共にナイトを連れてラーナの後を歩く。
ちなみに昨日行った書庫は1階にあり。報告会をした部屋は3階にあったのだが、まだ上に上がるようだ。結局着いたのは1番上の階。この建物は5階建てのようで、中々に広い=移動だけで疲れる…。
広い所に住むと大変だとしみじみ思った…。