おやすみ。
『ねー、おはなしおわったの?』
どうして寂しく思うのか考えていると、クアが話かけて来た。
「え?あ、うん。終わり、かな?どうしたの?」
『ごはん!ごはんたべよ!』
空気を読まないクアにみんなで苦笑する。本人は分かっていないけど、さっきまでの重たい空気はもうない。
「そうだね。よし!何が食べたい?」
『おにく~!』
あ、はい…。カツにしようかな。豚肉ではないけど…。
「あのさ、オレも一つ言っていいか?」
珍しく、遠慮気味に話しかけるスピネルに「何?」と返す。
「飯はシズクが作ったのが食べたい。」
「ん?うん、今から作るから待っててね。」
そんなにお腹空いてるのかな?
「あ、いや、今のことじゃなくて…。昼の…。」
昼?今日のお昼の話?そういえば、みんな元気なかったみたいだし、美味しくなかったのかな?
「屋台のご飯、美味しくなかった?」
「そうじゃねえけど…。普通、か?」
うーん、とスピネルは悩み出した。普通に美味しい、でも何かが違う。
どう言えばいいのか分からず頭を抱えている。
少しして考えるのを諦めたスピネル。
「とにかく!オレはシズクが作った飯の方が好きだ!」
言ってやったぞ!と言わんばかりのスピネルになんだか微笑ましくなる。
「ふふっ、そうなの?」
「おう!」
元気な返事をするスピネルに、また苦笑する。
好きと言われれば悪い気はしない。いや、むしろ嬉しいとしか思わない。
他のみんなも頷いたり、同意しているので、屋台のご飯はこの子たちにはイマイチだったってことだろうな。
「そっか…。よし!それじゃあ、気合い入れて作らないとね!あ、お手伝いはしてね?」
そう言って私はキッチンに向かい作業に入る。
みんなはお皿を出したり、テーブルの準備をしたり、下ごしらえを一緒にしたりと、それぞれが出来る手伝いをしてくれる。
中でもナイトは料理に興味があるみたいで、簡単な作業を手伝ってくれる。
「シズク、何をすればいい?」
「今日はカツにするから、キャベツの千切りが欲しいんだけど…。…出来る?」
千切りを頼むのは初めてだけど出来るかな?
「…千切り。…千回切ればいいのか?」
はい、ちがーう。…そういえば切り方の名前は教えてなかった。
いつも見本で切って「こうやって」って感じだったし、手でちぎるサラダとかを主に頼んでたからなぁー。
「違うよ。千回切ると多分形なくなるから…。見本、見せるね。」
数枚のキャベツを取り、ナイトに見本を見せる。
トントントン。
「こうやって丸めると切りやすいから。はい、ゆっくりでいいからやってみて。」
「あぁ。」
場所を変わり、ナイトに包丁を渡す。慣れない手つきで危なっかしいし、若干太めだけど、手伝ってくれているのだから文句はない。
「大丈夫そうだね。私はお肉の方やるからよろしくね。」
一言言って作業を再開する。
下ごしらえをして、衣をつけて、揚げれば完成だ。
「よし、それじゃあ食べようか!いただきます。」
スピネル、クア『「いただきまーす!」』
他「「「「いただきます。」」」」
3日ぶりの家族水入らずの食事。やっぱり気兼ねなく食べられる方がいいな。
魔王たちがいた時は、いつもより静かというか、私もだけどみんなも気を使っていたんだろうな。
「…明日、挨拶したら森に帰ろうね。ドラゴンも魔王も来たし、もう誰も来ないだろうから気を張らずに過ごせるね。」
次の予告はなかったし、本来結界内に入れるのは湖で生まれたドラゴンと魔王だけ。ダリアナたちは魔王がいたから入れたのか、もしくはシアが特別に通したのか…。分からないけど、個人で入るのはおそらく無理だ。
「えぇ、どちらも森に住むことを認めてくれているようですし、危険の少ない場所で過ごせるのなら私たちも安心です。」
私の言葉にフローラが同意するように頷き、みんなも頷いたり微笑んだりと同意の意を示している。
「うん。……今日はこの世界に来て1番疲れたね。早めに休もうか。」
また、みんなが頷く。
食べ終わり、片付けてお風呂に入る。寝るにはまだ少し早い時間に私は眠りについた。