反対
和やかな雰囲気で話は終わり、魔王が席を立ったことで幹部たちも立ちあがる。
だが、魔王は1度窓に目を向け、私に向きなおった。
「…もうすぐ日がくれる。今日は泊まっていけ。」
私の返事を待っているのか、魔王は立ち尽くしたまま出ていこうとしない。
私も外の様子を見るため、窓に視線を向けた。
確かに、夕暮れだ。でも、まだ道が分かるくらいに明るい。
今から出れば、暗くなるまでには森に帰れると思う。
「いえ、まだ暗くなる前に森に帰れますから。お気遣いなく。」
「…そうか。」
断ると思ってなかったのか、表情には出ていないが、少し落胆したように魔王は言った。
「!あー、でも暗くなるにつれ、強い魔物が出てくるぞ!危ないからやっぱ泊まっていけよ。な!」
なぜか、ギルが慌てたように引き止めようとする。
「強いって、私じゃ敵わないくらいの?…でも、そんなに強そうな魔物はいないみたいだったけど…。」
この世界に来た日に、ベリルとナイトに見回りに行ってもらって、とくに危険な魔物はいなかったって言ってたし。
「まぁ、大丈夫だとは思うが…。夜になると活発になる魔物や、夜にしか行動しない魔物もいるからな。念のため、明日帰った方がいいんじゃないか?」
なるほど、夜に外に出ることはなかったから、どんな魔物がいるのか知らないのは確かだ。少しでも危険な可能性があるなら避けた方がいいかな?
「えっと、それじゃあ一晩お願いしようかな。魔王様、やっぱり泊まってもいいですか?」
さっき断ってしまったので、考えが変わっているかもしれない。一応確認しておこう。
「あぁ。部屋を用意させる。ゆっくりしていけ。」
どうやら、気分を害してはいなかったようだ。
「ありがとうござ「泊まるなんてイヤよ!帰るの!」…………。」
私の言葉を遮り、影から飛び出したウィーナはなぜか不機嫌。
「ウィーナ?どうしたの?」
優しく問い掛けるといじけているのか、なかなか口を開こうとしない。
「…………。帰る…。帰ろ?」
鳥の姿でこてん、と首を傾げ、帰ろうと訴えかけてくる。
うん、可愛い!…じゃなくて!ホントにどうしたんだろ?
「どうして?何かあった?」
聞いてはみたものの、ウィーナたちはこの城にいる間、ほとんど影の中にいた。
ウィーナたちに対して、何かあった覚えは私にはない…。
「…居心地が悪いんだもの。だから早く帰りましょ?」
ウィーナは良くも悪くも素直なところがある。けど、[居心地が悪い]なんて、まるで[あなたたちと一緒に居たくない]と言ってるようなものだ。魔族の、それも魔王や幹部たちの前で言うなんて…。
「ウィーナ…なんでそんなこと…。本当にどうしたの?」
いつもと様子の違うウィーナに戸惑っていると、理解しない私にしびれを切らしたのか、人型に姿を変え、怒って…、いや、悔しそうに少し声を荒げてウィーナは言った。
「っどうしたの?じゃないわよ!なんで平気なの!?」
「?平気って何が?」
ウィーナが怒っている理由が分からず答えを求めたけど、キッと睨まれてしまった。なおさら怒らせたみたいだ。
「っ、もー!知らない!ふんっ!」
不機嫌なまま、ウィーナは影に戻ってしまった。
私はどうすればいいんだろうか…。ベトラーからの視線が痛いんだけど…。
「シズク、私が代わりに説明します。」
ウィーナと入れ代わるように影から出てきたのはフローラ。どうやら説明してくれるようだ。
「私たちはシズクを心配しているのです。…この場にいらっしゃる方や一部の方はシズクを受け入れて下さっていますが、それはごく一部。この城にいるほとんどの方はシズクが…ヒューマンがこの城いることを良く思っていない。そんな中で城に泊まるなんて不安でしかありません。もちろん、シズクに何かあったとしても私たちが守りますが…。私たちは、シズクに危害が及ぶ可能性がある場所に居たいとは思えないのです。」
つまり私を思っての行動、ということか…。
「シズクも、良く思われていないことは分かっているでしょ?」
……。分かってる。珍しいと見てくる視線もあったけど、1番多く向けられたのは、睨むような、不快だと思っているのが分かるものだったから…。
フローラたちが私を心配してくれているのは分かる。
それでも、このまま帰ってしまうと[魔族を信用できない]ということになるんじゃないか?
でも、フローラたちの気持ちも無視できない…。いったいどうすれば…。
どちらを取るべきか、焦りにも似た感覚が私を支配した。でも、頭を悩ませてもいい答えは出て来ない。
「なら、城の外なら問題ないんじゃない?」
悩んでいる私を見かねたのか、ダリアナが案を出してくれた。
「外って…。野宿でもさせるのか?」
それに、呆れたようにギルが言う。
「違うわよ。シズク、森で住んでいた家はどこでも出せるの?」
「え?あ、うん。大丈夫だけど…。」
「なら問題ないわね。裏庭なら広いし、ほとんど人も近づかないから、一晩くらい大丈夫でしょ。いかがですか?魔王様。」
ダリアナが魔王に確認を取る。魔族を否定するようなことを言ったから、さすがに不快に思っているのではないかと心配したけど、とくに気にした様子はない。魔王以外もフローラの説明に納得しているのか、怒ってはいないみたいだ。
「…そうだな。城内が心配だと言うなら、その方が安心出来るだろう。」
「決まりね。」
「えっと…。いいんですか?」
「あぁ。構わない。」
「よかったわね。これで解決。夜の森に入らず、城の中での危険もないわ。」
あれよあれよと言う間に話が進み、裏庭に一泊することになった。
フローラに、それでいい?と視線で問うと、微笑んで1つ頷く。
「ありがとうございます。今晩だけお邪魔しますね。」
お礼を言って頭を下げる私に、魔王は頷き「あぁ。」とだけ言った。
とりあえず、話しておくことは終わり、やっと解散する雰囲気になった。
んだけど…。
「あー、少しいいか?」
ギルは疑問があるようだ。
「…なんだ?」
早く言えと魔王がギルに視線を向ける。
「いや、裏庭に一泊は分かったんだが…家ってなんだ?今から建てるってわけじゃないんだろ?」
そういえば、家の話はしてなかったんだ。ギルと、あとの3人は知らないよね。
「えっと、アイテムボックスにね、住んでいた家を収納してるの。」
簡潔過ぎる私の解答にギルの頭に?が浮かぶ。
「は?家、だよな?そんなものまで収納できるのか?」
「うん。元々入ってた物だから。…信じられないかな?実際に見てみた方が早いかも。……えっと、他に話すことがなければ、裏庭に行こうと思うんですけど…。いいですか?魔王様。」
この場を出るのに、魔王の許可が必要かは分からないけど、話が終わってから誰も退室していない。多分、この城で1番の権力者を差し置いて部屋を出るなど出来ないのだろう。
「…あぁ、話は終わった。好きにするといい。」
魔王は部屋を出る許可を出した。けど、自らはまだ出て行く様子はない。
「ありがとうございます。えっと…それじゃあ、行きますか。えーと。……出来れば案内を…してくれると助かります…。」
この広い城を1度歩いただけで覚えるのは私には無理だ。裏庭に出れる道も、もちろん覚えていない。
「…来い。」
私はギルと一緒に行くつもりだった。だから案内もギルがしてくれると思っていたんだけど、「来い」と言ったのは魔王。そして彼は言うと同時に歩き出し、部屋を出て行く。そんな魔王に反応が遅れるも慌てて着いていく。
長らくお待たせしました。楽しみにしてくれている方がいるかは分かりませんが、ガラケーからスマホに変えて、慣れないせいか筆記意欲がわかず…。
更新が遅くなる可能性がありますが、これからも頑張って書いて行くのでよろしくお願いします。
読んでいただきありがとうございます。