勘違い。
ダリアナの話が終わり、しばらく沈黙が続いた。皆、何か思うことがあるのか空気が重い気がする…。
気まずい空気の中、私は勘違いしていたことに気づいた。
魔王の[好き]は、家族愛だと思っていたけど、恋愛の[好き]だということだ。
つまり、魔王には好きな人がいる!…かもしれない。もしくは、気になる人がいるということ。
でも、まだ確証がないから、みんなの意見を聞いてみようってことだ。
まぁ、それが分かった所で、私には関係ない話だろうけど…。
でも、私が知ってる人の可能性もあるかな?
ダリアナ、リズ、ラーナ、知ってる魔族の女性は3人だけ…。
!フローラかウィーナって可能性も!
……うーん、でも、アプローチはなかったと思うし、違う気がする…。私の知らない誰か、かな…。
人の恋愛話ってなんとなく気になるよね?ふふふ♪
「不幸にするつもりはないが…、肝に命じておこう。」
色々考えている間に、重い沈黙を破ったのは魔王だった。ダリアナに答えるように、魔王も真剣に返す。
それを聞き、ほっとしたように笑うダリアナ。私が見ているのに気づき、優しく微笑む。
私も笑い返したけど、いまいち状況が分からない…。
「話は以上だ。ご苦労だった。」
魔王がそう締めくくっる。
私が多少困惑している中、報告会は終わったようだ。
でも、誰も席を立とうとしない。なぜなら、魔王がまだいるからだ。いつもなら、終了と同時に席を立ち出ていくのに、まだ座っている。
そして、魔王の視線の先にはシズク。
終わったってことは帰っていいんだよね?
なのに…なんでみんな座ったままなの!?誰か立ってくれないと、立ちづらいじゃん!
魔王から視線を感じるし…。言いたいことでもあるの?
「…えっと、魔王様、どうかしましたか?」
このままでは、埒があかないと思い、聞いてみる。
魔王は一度、机に視線をうつし、再び私に視線を戻した。
「……いや。…帰るのか?」
何か悩んでいるのか、少し言いづらそうにそう言った。
言いにくいことでもあるのかな?でも、他には何も言って来ない。かといって、聞くのもな…。
とりあえず、聞かれたことに答えよう。
身分証を作って街も見れた。今のところ他に用はないから帰るつもりだ。
「身分証も作れたし、今は他に用事もないので、森に帰ろうと思います。…もしかして身分証以外に何か手続きがありますか?」
他にあるなら、済ませて帰った方が楽かもしれない。
また、ギルに一緒に行ってもらおうかな。
「……いや、急ぎするものはない。…物を売る場合、商業ギルドに登録が必要だが…。後は、冒険者ギルドくらいか…。」
「冒険者ギルド!あるんですか!?」
「?あぁ。どの国にもあるものだ。」
私の食い付き具合に、不思議そうな魔王たち。この世界の住人にとっては当たり前にあるもの、でも私にとってはゲームの中のものなのだ。興奮してしまうのは仕方がない。
冒険者ですってよ!?異世界物にはつきものだね!
いっそ冒険者になって、色々な国に行くのもいいかもしれない。
「冒険者って登録した国以外でも、依頼を受けることは出来るんですか?」
国ごとに登録ってなると面倒だからな。
「出来るはずだが…、…冒険者になりたいのか?」
意外そうに魔王が聞いてくる。
「興味はありますね。冒険者になって、色んな国に行ってみるのも楽しいかもしれません。」
「…そうか。」
魔王は一言呟き口を閉ざした。
結局何が言いたかったのかな?
内心首を傾げ、次の言葉を待っていると、ガルムが口を開いた。
「嬢ちゃん、冒険者になるのはいいが、この国で登録するのはやめた方がいいぞ。」
「え?どうして?」
どこで登録しても同じじゃないの?
「嬢ちゃんはヒューマンだからな。他の国でも冒険者として行動するなら、ヒューマンの国で登録した方が色々勘ぐられなくていいと思うぞ。」
勘ぐるって何を?
意味が分からず首を傾げていると、ルークが説明してくれた。
「ヒューマンの多くは魔族を嫌っている、と話したのを覚えていますか?」
「?うん。」
アイテムボックスの話をした時、ダリアナが言っていた。
でも、何の関係があるんだろ?
「冒険者カードには、最初に登録した国名も表示されます。だいたいは、生まれ育った国で登録するので、表示されている国=母国と思われます。
シズクはヒューマンですが、この国で登録すると、魔族の血が流れていると思われる可能性があるので、あまりいい顔はされないでしょうね。」
「それは和平を結んでる国でも?…魔族の人は他の国で冒険者の仕事はしないの?」
「いえ、他国でも魔族の冒険者はいます。和平を結んでいる国なら一応問題はないのですが…。ただ、好意的な者は少ないみたいです。ヒューマンより実力のある者が多いですから、妬みもあるのでしょうが…。」
身体能力が違うし、魔力量も違うとなると、ヒューマンからすれば不公平と思うんだろうな。
「ですが、冒険者ギルドにとっては魔族の冒険者はありがたいようです。ヒューマンでは討伐が難しい魔物などもいますから。」
「そうなんだ。…私としては魔族の血筋と思われても別にいいんだけどな。…いや、むしろその方が都合がいいのかも。私は魔族に好意的なヒューマンと仲良くなりたいし、魔族ってだけで偏見を持つような人はイヤだな。」
魔族ってだけで、個人を理解しようとしない人は論外だ。
住む場所が違えば文化は違うし、個人の性格や趣味嗜好が違うのは当たり前のこと。それを知ろうともせずに嫌う者がいるなら、仲良くなどなりたくもない。
「ふふっ、そうですか。シズクは他のヒューマンと違いますね。普通、もっと迷うと思いますが…。…魔族の仲間と思われてもいいのですか?」
楽しそうに、嬉しそうに笑うルーク。本当にいいのか?と最後の確認。でも小さな子どもに聞くみたいに穏やかな問い掛けだった。
「いいよ。私は魔族の人たちと仲良くなりたいから。それに、私にはヒューマンが魔族を嫌う理由が分からない。…怖いってだけの理由なら、今のところ私には当てはまらないしね。この3日間だけでも関わったみんなが優しいって分かったよ。…ヒューマンを嫌う人もいるけど、何かをされたわけじゃないし、これから先、何かされたとしても、個人のしたことで、魔族のみんなを嫌いになんてならないよ。」
笑顔で語る私に、みんなも微笑んでくれる。
優しい彼らに出会えてよかったと改めて思う。これからも、彼らと笑いあえる日が続けばいいな。