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忠告。

「では、本題に入りましょう。まず、貴女がこちらに来ることになった理由を私たちにも教えていただけますか?」


簡単な自己紹介が終わり、ベトラーが話を進める。


ベトラー・ギル・ルシエル・ダンの4人は、まだ理由を知らないみたいだ。


私はこっちに来て、3回目の酒瓶事件を話した。


反応は、前に話した時と似ている。


呆れたような、ビックリしてるような、何とも言えない表情の彼らに、すでに知っている人たちは苦笑する。


「……まぁ、なんだ。御愁傷様…だな。…ま、その内良いことあるって!」


沈黙を破ったのは、どう励まそうかと複雑な表情のギルだった。


そんなギルに、私はクスクスと笑う。


「ありがと。でも、良いことなら最初からあったよ。私はこの世界に1人きりじゃなかったし、女神様が色々工面してくれたおかげで生活には困ってないし。…なにより、ドラゴンや、ギルたちに会えたからね。今のところ良いことづくしだよ。」


屈託なく笑う私につられたように、ギルや家に来た面々も笑ってくれる。


場がほっこりしている中、ベトラーが水をさす。


「貴女がこちらに来ることになった経緯は分かりました。…それで、貴女はこれから先、どう過ごすつもりですか?」


無表情で感情のない目。

ただの確認作業のように、ベトラーは私に興味がないのが分かる。


「今まで通り、あの森で暮らすつもりです。…ただ、ずっと引きこもるつもりはないので、異世界に来たからには、色々見て回りたいですね。ペンタスにも行ってみたいし、ヒューマンの国にもその内行ってみたい…。あ、でも、まずはこの世界の常識の勉強からかな?」


折角、異世界に来たんだから、楽しまないとね!


「ヒューマンの国、ですか…。」


ベトラーが呟く。ほの暗い感情が出ている。


「……1つ忠告しておきますが、ザハゴだけは何があっても行かないように。ろくな国ではありません。」


吐き捨てるようにベトラーは言った。声に出さずとも、憎いと伝わって来る。


「ザハゴ…。」


ギルが教えてくれた国だ。

女神の熱狂的な信者がたくさんいるって言ってたな…。

魔族に戦争を仕掛けて来た国。


でも、何がそんなに憎いのかな?戦争では、被害はほとんどなかったみたいだし…。…他に因縁みたいな物があるのかな?


でも、何かは聞いちゃいけない気がする。


「分かりました。ギルの話を聞いて、好きになれそうになかったし。女神様の使いだと拉致られたくもないですから、関わらないようにしますね。」


にこりと笑い言うと、[何を話したんだ。]っと、睨むようにベトラーはギルを見ていた。


「200年位前に、ザハゴが女神様の使いって奴を捕まえて、戦争仕掛けて来たって話しただけだ。なぁ?」


私はコクリと頷いた。他に何かあるんですか?と不思議そうな顔をベトラーに向ける。


「そうですか…。」


ほっとしたのか、少しだけ力が抜けたようだ。


何かあるのは確かみたいだ。きっとベトラーにとって触れられたくない、何かが…。



それからのベトラーは普通で、淡々と進行をしていた。


報告会と言っても、私が契約している子たちの紹介や、私のアイテムボックスやシャンプーなどの、一部魔王一行も使った減らない物について。

後、湖にあった魔石の話とかで、何の魔法が使えるのか、とか他に何を持っているのか、などは聞かれなかった。


本当に、この2日の間で知ったことの報告といった感じだ。

報告会は建前で、あらいざらい話せ、って展開になると思ってたから、少し拍子抜けした。


いや、正直ホッとしてる…。


話も終盤になり、そろそろお開きかな?と思っていると、ベトラーがこの部屋に入って初めて、私の目を見て発言した。


「では、最後に確認ですが、貴女は魔族と敵対するつもりはない。と、思ってよろしいですか?」


一見、真剣な眼差しに見えるけど、彼の目の奥には、何を言っても信じない。と言っているような決意にも似た何かを感じた。


「はい。…と言っても、貴方は信じてくれないんでしょうね。」


残念、と苦笑すると、まさか口に出すとは思っていなかったのだろう。ベトラーは少し動揺した。


「…そうですね。口では何とでも言えますから…。……もし、魔族とヒューマンの戦争が起きた時、貴女はどちらの味方をするのでしょうね?」


試しているのか、皮肉っぽく言われ、カチンと来た。


「ヒューマンの味方をする。…と、言ってほしいんですか?…私はこの世界に来たばかりで、まだ、魔族の人との関わりしかないです。この先、ヒューマンの国に行って友達とか大切な人が出来るかもしれない。でも、魔族と敵対はしない。だって、ダリアナたちは最初に出来た友達なんです。友達の大切なものを少しでも傷つけるようなことはしたくない。

……貴方がヒューマンを嫌うのは勝手です。でも、私は貴方に何もしていない。なのに、最初から疑いの目で見られるのは正直、不快です。」


言いたいことを言ってやった。興奮して、アドレナリンが出ているのだろう。身体が熱い。何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

きっとベトラーは激怒してる。生意気なヒューマンと、ますます嫌われるかもしれない。


…何か言い返してくるかな?

と、身構えてみたものの、何も言ってこない…。


ちらっと様子を伺ってみる。

驚いてる。いや動揺してる?


開いた目が、少しさ迷うように揺れていた。


「ベトラーさん?」


名前が呼ばれたことで、ハッと我にかえり、キリッとした仕事が出来る人といった感じに戻った。


でも、一瞬不安そうな、助けを求めるような目をしていた気がする。まるで、迷子の子供みたいな…。


「……例えば、ヒューマンの友が出来たとして、その友が魔族との戦に行くことになった場合はどうしますか?」


ハァー。まだ言うか。それなら敵対する、と言うと思ってるのか?


「戦争に参加するのか、ということなら、しません。元々誰かと争うのは苦手なんです。……でも、私の意思関係なく、戦場に駆り出された時は…そうですね…。結界の中にでもいましょうか。戦いたくないのに駆り出された人たちと一緒に。」


いいことを思いついたと、笑う。

そうすれば、無駄に命が散ることはない。魔族側も敵が減る分、多少は楽になるだろうし、戦争も早く終わるはずだ。

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