ドッペルゲンガー?
知らない顔は2人。
いや、1人は知っている顔だけど、目の色が違う。この人は薄い水色の目をしてる。
でも、私が知っている人物でないのはすぐに分かる。だって彼は別の席にいるから。
何が言いたいかと言うと、同じ顔が2人いる、と言うことだ。
「…ドッペルゲンガー?ルーク死んじゃうの?」
頭では違うと分かっているけど、つい口から出ていた。
「え?…死にませんよ。急になんですか?」
この子は何を言っているのか…。とルークは怪訝な顔をする。
そして、皆の頭の上には?が浮かんでいるようだ。
こっちの世界にはドッペルゲンガーという言葉はないのかもしれない。
「えっと、私のいた世界ではね、自分と同じ顔の人に会うと近いうちに死ぬっていう話があるの。」
「ふーん、変な話ね。なら、双子なんてすぐにあの世行きじゃない。」
ダリアナの言葉に私も同意だ。
「私もそう思う。まぁ、たんなる噂話だけどね。…いや、作り話かな?」
「そうですか。…実際は違うとしても、あまり気分のいい話ではありませんね。」
確かに…。誰かが死ぬどころか、名指しで死ぬのかと言ったのだ、冗談でも、本人たちにしてみれば不快でしかないだろう。
「…ごめんなさい、ルーク。えっと、ルークのお兄さん?弟さん?もごめんなさい。」
まだ名前を聞いていないので、少しグダグダだけど、2人に謝る。
ルークはため息を吐き、仕方ないなと笑う。
もう1人は、頬杖をつき、なぜかずっとニコニコして一部始終を見ていた。
一応自分にも関係する話だったのに、気にしていない。…いや、他人事のようだ。
そして、機嫌のいいと分かる笑顔で、彼は口を開いた。
「面白いね。君のいた世界の話、もっと聞かせてよ。」
好奇心旺盛な、知りたがりの子どもみたいに、キラキラした純粋な目が向けられる。
「えっと…。」
「ルシエル、話はまたの機会に。今から報告会ですからね。」
どうしようか、と困惑していると、ルークから助け船が出た。
ルシエルは「ちぇ〜」と残念そうだ。
「分かったよ。今度、じっくり聞かせてね♪」
でも切り替えが早い。余程、向こうの話が聞きたいのか、楽しみで仕方ないといった感じだ。
一段落したところで、ベトラーが口を開く。
「では、報告会を始めましょう。その前に、貴女と面識のない者の紹介をしておきましょうか。」
そういうとベトラーは、ルシエルとドワーフに目を向ける。自己紹介しなさい、ということだろう。
先に口を開いたのは、ルシエルだった。
「さっき、ルークが言ったけど、改めて。ボクはルシエル。ルークの双子の弟だよ。研究部門の所長をしてるんだ。よろしくね。」
「研究、ですか?」
「うん、魔石や魔道具。薬なんかもね。後、種族の違いについてとか、幅広くやってるよ。ちなみに、今一番研究したいのは君だね。」
ニコニコと楽しそうなルシエル。
「え?私ですか?…私の研究をしたところで、面白くもなんともないと思いますけど…。」
「そんなことないよ!!」
戸惑い苦笑する私に、ルシエルはぐわっと目を開き、力説するように言った。
「君は異世界から来ただけじゃなく、女神様が目をかける存在だよ!何もないわけがないよ!」
興奮しているのか、まるで獲物を見つけた肉食獣のような目をしている。怖い…。
「ルシエル、落ち着きなさい。シズクが困っています。」
弟の扱いに慣れているのだろう。ルークは冷静だ。
「え?…あぁ、ごめんね。つい、いつもの癖で…。知りたいと思うと暴走しちゃって…。怖がらせちゃったかな?」
ごめんね?と落ち込んだように謝っている。
うん、怖かった…。とは、さすがに言えない。
「いえ、大丈夫です。」
笑顔で謝罪を受け入れると、ほっとしたようだ。さっきの捕食者の目は今は消えている。
私もほっとした…。
「でも、研究はさせてね?大丈夫!話を聞いたりするだけで、薬を使ったり、身体を傷つけたりはしないから!」
安心してね。と笑うルシエルに、アハハ…。と曖昧に笑うしかない。
さっきの目を見ていなければ、話ぐらいいくらでも。と言えたけど、不安だ…。
「話は終わったか?次はワシの番じゃな。…ワシはダン。見ての通りドワーフじゃ。武器の修理や制作なんかを取り仕切っとる。」
話が途切れた所で、ぶっきらぼうに、淡々と自己紹介をした、ダン。
他に何か言うこともなく、黙ったままだ。
でも、彼からイヤな視線を感じないし、私をよく思っていない、というわけではないと思う。
ぶっきらぼうなのは、元々の性格なのだろう。
「じゃあ、私も改めて。…私はシズク。女神様のご厚意でこちらの世界に転生することになりました。こちらの知識は残念ながらないので、色々教えていただければ幸いです。ご迷惑をお掛けすることもあると思いますが、よろしくお願いいたします。」
今更ながら、一応公の場ということで、よそ行きの体面を気にした話し方をしてみた。
案の定、私を知る面々はポカンとしている。
いたずらが成功したみたいで面白い。
「そう畏まる必要はない。いつも通りにしていろ。」
「はい、ありがとうございます。」
正直、馬鹿丁寧な言葉づかいは疲れるので、魔王の申し出は有難い。顔見知りばかりだし、気楽に行こう。