感想
ふー、と本を読み終え一息ついた。
「魔王は魔族同士の争いを防ぐために生まれたんだ。」
誰に言うでもなく呟き、閉じた本を撫でる。
ふと視線を感じた。ラーナだろうか、と顔を上げ目を向けると、知らない人がいて、ビクッとなった。
そこに居たのは、藍色の髪と目にメガネをかけている男性。
「やぁ、こんにちは。」
「…こんにちは。」
笑顔ではあるけど、彼の目は笑っていない。警戒しているのだろう。空気がピリピリしている。
「君は誰?ヒューマンだよね?何でここにいるのかな?」
目を細め、まくし立てるように聞いてくる。
「シズクです。確かにヒューマンですね。何でかは、暇潰しですかね?」
ニッコリと同じように笑顔を貼りつけ、淡々と返した。
「暇潰し?ふーん。……で、君はどう思った?」
「どうって?」
何がだ?
何を聞きたいのか分からなかったが、彼の視線は私の膝にある本に向いていた。
本の内容に関してか?
「最初の。魔族とヒューマン、君はどっちが悪いと思う?」
なんだろ。品定めされてる気分だ。
「親に関してなら、ヒューマンの父親の行動はダメだと思いますね。」
「どうして?」
「魔族の子が、反省をしていないなら、体罰を与えることはあるかもしれないけど、自分のしたことがいけないことだってちゃんと分かってます。
手を出すのではなく、今後はないように言い聞かせるべきだったと思いますね。
もしくは、軽く1回だけとか。この父親はやり過ぎです。
子どもが大切なのは分かりますけど…。
それに、父親が手を出さなければ、子ども同士の喧嘩で終わったかもしれないのに…。
とはいえ、冷静でいられない気持ちも分からなくはないので、複雑ですけど。」
「…魔族に関しては?」
「え?…そうですね。偉いなって思います。」
余程意外だったのか、張り付いていた笑顔が剥がれ、目をぱちくりさせている。
「どうしてかな?魔族の父親は暴れて関係ない人も傷つけたんだよ?」
「まぁ、周りを巻き込んだのはダメですけど、過剰な暴力を無抵抗な子にされて、しかもそれが当然だと反省もしない相手になら、キレても仕方ないと思いますよ。思いません?」
「……。思う。」
「それに、子ども同士の喧嘩なら出来るだけ見守るべきだと思いますけど、子ども 対 親なら、親が出るのは当然です。子を守るのは親の役目なんですから。
まぁ、だからといって魔族の父親がしたことは許されることではないですけど…。それを分かっているから村を出たんでしょうし。」
「………君、よくしゃべるね…。」
「あれ?感想を聞いて来たのは貴方ですよ?…えっと。」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕はキト。ここで司書長をしてる。」
「司書長…。」
偉い人か。あれ?でも…さっき寝てたよね?
「仕事しなくていいんですか?」
「仕事?部下たちがやってくれるから、僕はとくにすることないんだよね。」
……あぁ、部下が苦労するタイプの上司か。
本当は仕事出来るけど、自分の興味あることじゃないとやらないみたいな?
もしくは、上司より部下が仕事出来るパターンか?
「……君。失礼なこと考えてない?」
おや、鋭いな…。
でも、慌てず騒がず、笑ってごまかそう。
ニコッ。
「いいえ?」
「…まぁ、いいや。で、さっきの。魔族が偉いって何で?」
腑に落ちない様子だけど、流してくれるようだ。
「あぁ、えっと…出ていった魔族の親子…、父親は村長になったみたいですけど。ヒューマンと争わないようにしてますし、他のとばっちりを受けた魔族たちも、ヒューマンにやり返したりはしていないみたいなので。
人は鏡って言葉があります。悪意には悪意を返してもおかしくないのに、魔族たちは一方的に悪意を向けられ、それに耐えていた。
…きっと息苦しかったでしょうね。魔族の村にたどり着いて、ようやく安堵出来たでと思います…。」
愛おしむように、本を撫でる。
「ふーん、そう…。君は魔族側だって思っていいのかな?」
「え?…本に関してはそうですね。でも、現実の話なら、今のところ魔族の方としか面識がないのでよく分かりません。」
「は?どういう…「キト!!貴方何してるの!?」」
あ、ラーナが戻って来た。
何か怒ってるけど…。
「なんだ、もう戻ってきたの?」
怒っているラーナに対して、焦る訳でもなく普通に返している。
「質問に答えなさい!この方に何かしたんじゃないでしょうね!?」
「何もしてないよ。話してただけ。ね?」
キトは同意を求めて来た。
「ラーナさん、ほんとに話してただけですよ。この本の感想を聞かれて。」
そう言って、本を見せた。
「そうですか…。まだ、シズク様のことを話ていなかったので…。この子が失礼なことをしたのではないかと…。お見苦しい所をお見せしました。」
何もなかったと知り、ほっ、としたようだ。
「いえ、お気になさらず。…ところで、お2人は親しい間柄みたいですね。あ!もしかして、恋人同士ですか?」
閃いた!と言うように手を叩き、どうなんですか!?と視線を送る。
2人はぽかんとして、固まった後、ラーナは少し困ったように、キトは顔をしかめた。
「この人の恋人とか…。君、頭…いや目は大丈夫?」
ベシッとラーナがキトの背中を叩いた。
「シズク様、確かにキトとは親しいですが、恋人ではありません。この子は私の弟、ですから。」
「え、弟?」
でも…。
2人を交互に見る。
ラーナは兎の獣人。でも、キトは…多分猫の獣人だ。