昔々のお話②
だが、彼らは迎え撃つことをしなかった。争いたくなかったのだ。
だから、村を明け渡し魔物が住む森に入った。ヒューマンにとって魔物は脅威だが、魔族たちにとってはそこまで脅威ではない。
子どもたちには危険だが、ヒューマンと争うよりはいいだろう。
数日森を歩き、湖に行き着いた。
魔族たちはここを拠点に森を開いていこうと考えた。
しかし、そこに1匹のドラゴンが現れた。
こんな森の奥に何をしに来た。
私の命でも取りに来たのか。
ドラゴンは静かに問いかけた。
魔族の村長は言った。
違う、自分たちは住む場所を探しているだけだ、と。
ドラゴンに経緯を話、どうかこの森に住まわせて欲しい、と懇願した。
事情は分かった。だが、この先には我らドラゴンにとって大切な場所がある。ここに住むことは許さない。
しかし、しばらく川を下れば、かつて他のドラゴンが住み、平地になっている場所がある。近くにヒューマンの村もない。好きにするといい。
魔族たちは喜びそこに向かった。そして、新たな魔族の村を作った。
村が形になって来た頃、数人の村人が旅に出た。
彼らは魔族の村があることを迫害されている魔族たちに教え、一緒に来ないかと誘った。
中には断る者もいたが、多くの魔族が村へと移り住んだ。
だが、人数が増えれば土地がいる。そして、多くの魔族を仕切るのは村長1人では無理だった。
頭を悩ませる村長に、村人が提案した。
魔族には種族がある。住みやすい場所も違うのだから、新たに村を作ればいいのではないか、と。
そして、村人たちはいくつかの集団に分かれ、魔族の村が増えていった。
それから、数十年。
魔族たちは、平和に暮らしていた。
しかし、いつしか小さないざこざが起こるようになっていた。
どの種族が強いだとか、自分の村が一番だとか。些細なことだった。
年に数度、各村の村長が集まり、情報交換などをしていたが、そこでも同じようなやり取りがなされた。
なら、どの種族が1番か勝負をしよう。
年に1度、村で強い者が代表に選ばれ試合をすることになった。
最初は遊びだった。しかし、数年の間に、村同士の関係は険悪になってしまった。
あそこには負けない。あの村は敵だ、といがみ合うようになっていた。
村長は、悩んだ。どうすれば、また仲良く暮らせるだろうか、と。
皆、強さにこだわっている。なら皆が認める強い者を自分たちの王にするのはどうだろうか。
自分たちでは、敵わないような絶対的な存在を。
しかし、魔族の中にそんな者はいない。
勝負に勝った者を王にしても、嫌々従うのでは意味がないだろう。
悩んだ末、ドラゴンになってもらえばいいのではないか、という結論にいたった。
そして、各村の村長たちを集め、思いを話した。
ヒューマンと争わないために村を作ったのに、魔族同士で争いを起こすのか。もういがみ合うのはやめよう。
自分たちをまとめる者が必要だ。私たちでは皆をまとめることは出来ないのだから。
そうして、村長たちはドラゴンと会った湖に向かい、ドラゴンに自分たちの王になって欲しいと頼んだ。
なぜ、私が魔族の王にならなければいけない。お前たちの問題に私を巻き込むな。
だが、このままでは争いが起きるかもしれない。どうか力を貸して欲しい。
知ったことか。私には関係のないことだ。
どんなに頼んでもドラゴンは首を縦には振らなかった。
それでも諦めず、何度も何度も頼みに行った。
お前のしつこさにはうんざりだ。何度来ようとも魔族の王にはならない。
しかし、お前たちが王を必要としていることは、重重分かった。
だから、あの御方にお前たちの思いを伝えてやる。
ドラゴンは、あの御方。女神に魔族たちのことを話した。
いや、話さずとも女神は全てを知っていた。
魔族とヒューマンが仲違いをし、今ではヒューマン同士でも土地をめぐって争いが起きています。
魔族たちはまだ踏みとどまっていますが、それもいつまで持つか。
ですが、王の存在で争いが起きなくなるのなら、彼らが求める王を与えましょう。皆を導くことの出来る王を。
そうして、女神は魔族の王。魔王を創った。
魔王は湖で生まれた。10歳程の子供の姿で現れた。
ドラゴンは村まで魔王を連れて行った。
お前たちの望んだ王だ。見ての通りまだ子どもだ、お前たちが育てろ。
村人たちは戸惑った。しかし、この子どもが自分たちの王なのだ、と不思議と受け入れることが出来た。
魔王が纏う空気が自分たちと違ったからだ。
そして魔王の他にもうひとつ、女神からの贈り物があった。
それはこの魔族の国の名前。
「カルミア」大きな希望と言う意味を持つ、星の形に似た花の名前だ。