1冊の本。
昼食が終わり、執事やメイドの人達も片付けを終えるといなくなり、魔王は仕事に戻った。ギルは昼寝をする、と言ってどこかに行ってしまった。
「幹部たちが集まれば呼ぶ、それまでは自由にしていい。」
と言われたが、ここは魔王の城。そして、私はヒューマン。一応、ラーナを世話役に付けてくれたけど、うろうろするわけにはいかないよね…。
だからといって、いつまでも庭園にいるのもな…。
「シズク様」
様付けはしないってことになったのに様付けされたので、ぷいっと顔を背けた。
私たち以外いないんだから、堅苦しいのイヤだ。
「………シズクさん。」
「ふふっ、なんですか?」
ラーナさんや、やれやれと声には出てないけど、態度に出てるよ。
「しばらく時間がありますので、どこか行きたい場所はございますか?」
「行きたい場所…。」
って言われても…ない、な。というか、何があるかも知らないしな…。
探検する?しちゃう?
少しうずうずしていると、フローラが意見を言った。
「シズク、この世界を知るために本を読むのはどうですか?」
確かに…、この世界について知っていることはほとんどない。
知識はあっても困らないし、そうしようかな。
「そうだね。ラーナさん、図書館…いや、書庫?はありますか?」
「えぇ、ご案内いたします。」
皆には1度、影に戻ってもらい、ラーナの後をついて行く。
しばらく、歩くと扉の前で止まった。
「こちらです。」
ラーナが扉を開け中に入る。そこにはたくさんの本、本、本!
って当たり前か…。
中は二階建ての作りになっていた。窓際などに机とイスも置いてあって、ここで調べたり、読んだりもできるようだ。ホコリっぽくもなく、きちんと整理されていて、落ち着いた空間。
入って左側にカウンターがあって、そこに…うつ伏せになって眠っている人がいた。
「……。寝てる?」
「お気になさらず、いつものことですので…。さぁ、さぁ、こちらへ。」
ラーナに背を押され、2階へ続く階段を上がる。
「歴史などはこの辺りです。私はお茶の準備をいたしますね。少し側を離れますが、今の時間はあまり人は来ませんので、ゆっくりなさってください。」
そう言って、ラーナは書庫を出た。私はたくさんある本の中から、何を読もうかと、タイトルを見ながら歩く。
その中で1冊の本に目が止まった。タイトルは[魔王とカルミア]。
手にとって、窓際にあったソファーに座り、ページを開く。