あれ?なんか違う…
大人しく2人の後をついて行くと、すでに開いている扉があった。どうやら、そこから庭園に出られるようだ。
外に出て、私たちを迎えたのは、大小色とりどりの花たち。
バラの咲くアーチのトンネルがあり、それをぬけると丸い形の広場があった。そこには3人掛けのテーブルが用意され、数人の執事やメイドが待ち構えていた。
「お待ちしておりました。どうぞお座りください。」
椅子を引かれ、魔王とギルは席に着く。
「シズク様もこちらにお座りください。」
座ろうとしない私に、初老の執事が声をかけ、椅子を引いたまま待っている。
「あ、いえ。私は…その。」
確かに外で食べようと言った。…だけど、私が思っていたのと違う。
「どうした、気に入らないのか?」
佇む私にしびれを切らした魔王が口を開く。
「いえ、そうじゃないんですけど…。」
魔王とギルが座るテーブルには、2人分の料理が用意されている。キレイに盛り付けられた、豪華な料理が。この席で屋台の串焼きを食べると思うと気が引ける。
それに、フローラたちの席がない。シートを敷くにも下は石畳。痛いだろうな…。どうしたものか…。
「なんだ。言いたいことがあるなら言え。」
怒っているわけではないけど、少し圧を感じる。
「えっと、思っていたのと違って…。」
「お前が言った通り外だ。何が違う?」
「私は湖で食べた時みたいに、地べたにシートを敷いて座って食べるっていうのを思っていたので。それに皆の座るところがないですし…。」
あ、でも魔王を地べたにって失礼なことしたな。周りも「え?何言ってるの?」と困惑気味だ。
周りの反応を気にせず、少し考え、確かにと呟いた魔王。
「そうだったな。…では、そうしよう。」
そういうと、テーブルなどを片付けるよう、周りに待機している者たちに命じた。
「え?いや、魔王様たちはそのままで!」
せっかく準備されているし、準備してくれた人たちに悪い気がした。
どうしようかと、視線をさ迷わせると丸い屋根が見えた。おそらく東屋だ。
「えっと、あ!あそこ。私たちはあそこで食べていいですか?」
東屋を指差し、魔王は指したその先を見てから、私に視線を戻した。
「好きにしろ。」
不機嫌になったり、呆れたりすると思ったのに、あっさりと言われ、少し拍子抜けした。
「じゃあ、移動するか。」
ギルが言うと、執事たちがテーブルを運びだした。向かっているのは東屋がある方角だ。
あれ?結局、魔王たちも移動するなら意味ない?
……ま、いっか!
魔王たちに先導され、迷路のような生け垣を抜け、開けた場所に着いた。
そこは、芝生がキレイに手入れされ、周りを生け垣に囲まえた隠れ家的な場所だ。
東屋は白を基調にしていて、丸いテーブルと四方に木で出来た2人掛けのベンチがあった。
魔王たちのテーブルは東屋の近くに準備され、2人はすでに座っている。
私も皆を呼んでベンチに座り、食べ物をアイテムボックスから出していく。
周りの執事やメイドの視線が気になるが、とりあえず無視だ。
「収納空間が使えたのか。そういや、手に持ってなかったな…。」
ギルが今さら気づいたようだ。
ギルが買った食べ物は胃袋に消えていたが、私は人目を気にしつつこっそりボックスにしまっていた。
でも、おそらくギルの周りでは収納空間を使える人が多くいて、だから私が使っても何も思わなかったのかもしれない。
「収納空間とは少し違うんだけどね。」
「何が違うんだ?」
「えっと…「待て。夕刻に幹部たちを集める。話はその時だ。」」
魔王に遮られた…。
ここで話ちゃいけないのかな?
……執事たちがいるから?
話はその時ってことは、私もその集まりに参加しないといけないの?
「えーと、魔王様。私もその集まりに参加するんですか?」
「あぁ、顔見せのようなものだ。それに、1度に話せば楽だろう。」
確かに…、1人1人別々に説明となると、正直面倒だ。
「そうですね。分かりました。」
「じゃ、とりあえず食うか。腹へった。」
「!!……ギルってすごいね…。」
ギルの腹へった発言にビックリだ。串焼き5本食べた後も、揚げ肉団子やソーセージ、肉と野菜のサンドなど、行く先々で何かしら食べていたのに…。
『クアも!クアもおなかすいたよ!』
「ふっ、そうだね。食べよっか。」
クアに催促され、私たちも食べ始める。
が、とくに話をすることもなく、皆黙々と食べている。
しばらくして、屋台で買った物はキレイになくなった。
「足りない…。シズク、何かないか?」
スピネルはまだ食べ足りないもよう。
「うーん、あ!パウンドケーキがあるよ。食べる?」
「食べる!」『クアも〜!』
スピネルとクアの目が輝く。
「はいはい、ちょっと待っててね。」
皆のケーキとお茶を用意して、食後のデザートタイムだ。
さっきは皆、淡々と食べていて、ちょっと空気が重かったけど、今はいつも通り、笑顔もあって穏やかだ。
知らない場所で緊張してたのかな?