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嘘でしょ…

「では、準備をいたします。こちらでお召し上がりになりますか?」


「あぁ。…あ、ちょっと待て。シズク、7人分用意すればいいのか?」


ギルは、私が契約している子たちのことを思い出し、確認してくれた。


「え?私たちのはいいよ。魔王様とギルの分だけ用意してもらって。」


「食わないのか?」


「ううん、街で買ったものを食べるから。」


あ、でも…この部屋(高級品だと分かる家具や調度品が置いてある)で屋台の物とか食べるのは場違いだな。


「ねぇ、どこか外で食べられる所ない?」


「外?」


「そう。出来れば景色がキレイな所がいいな。」


「なんで外なんだ?俺たちと食いたくないのか?」


ギルがむすっとして言ってくる。


「違うよ。ただ、この部屋で屋台の物って場違いだなって思って…。それに天気もいいし、外で食べるの気持ちいいと思うよ。…ね?魔王様。昨日みたいに外で食べませんか?」


「…庭園がある。そこに準備させよう。」


あっさりと私の提案に了承した魔王に、ギルもラーナも驚いているようだ。


「準備を。」


「!はい、すぐに!」


魔王の一言で、われに帰った2人。

ラーナは返事をして、一礼した後部屋を出た。


「あー、俺らも行くか…。」


苦笑を浮かべ、ギルが部屋を出ようと一歩踏み出し、魔王も続く。それに私がストップをかける。


「あ、待って。」


なんだ?と足を止め、振り返る2人。


「魔王様、確認なんですけど、…女神様が私をこの世界に生き返らせてくれたってことは話さない方がいいですか?ラーナさんには簡単に話ちゃったんですけど…。」


「何を話した?」


「えっと、別の世界で1度死んで、その原因が女神様で、お詫びにこっちに生き返らせてくれた、とだけ。」


「それなら、問題はないだろう。…だが、加護に関しては言うな。幹部は知っているが、広めない方がいい。」


「広がると何かあるんですか?」


「…分からない。女神の加護を受けた者など今までにいない。」


「そうだな。とくに過激な女神信者は、シズクを女神様の使いだとか言って監禁しかねないな。」


……なんかギルが怖いこと言った。


「監禁って…。」


「あ、魔族の話じゃないぞ。世界に関わる危機がない限り、女神様は手を出すことがないっていうのは知ってるからな。ただ1人の神だから信仰はしてるけど。まぁ、信仰してるのは、ヒューマンも同じだ。でも、女神様の声を聞ける者がいない。だから、色々と期待するんだろうな…。」


やれやれと苦笑し、肩をあげるギル。


「えっと、魔族は女神様と話せるってこと?」


「いや、私1人だけだ。…女神に呼ばれた時だけだがな。」


魔王が答えてくれた。


「まぁなんにせよ、気をつけた方がいいな。監禁っていうのも、実際あったことだから。噂になれば、お前に接触しようと試みる者が出てくるかもしれない。」


ギルの言葉に驚く。


「え!?実話なの!?」


「あぁ、200年くらい前だったか?ヒューマンの1人が災害が起きるから、村から逃げるようにと神託を受けたとかで、実際に災害が起きたんだよ。信じた村人たちは逃げて助かった。それが噂になって、ザハゴって国が女神の使いだと、そのヒューマンを拐い神殿に監禁した。」


「…どうなったの?」


「俺らには関係のない話だ。……と、思ってたんだけどな。女神様の加護を得たとか言って、ザハゴは魔族に戦争を仕掛けて来た。」


ん!?


「えっと、その拐われた人に何か力があったりしたの?すごく強いとか?」


「いや、弱かった。…というか、戦意がなかったな。本人は無理矢理連れて来られて、顔面蒼白。ブルブル震えてた。」


そんな人を戦場に連れて行くって…。


「でも、何か言われたみたいでな、震えながら攻撃して来た。…脅されでもしたんだろうな。とはいえ、元々力の差は歴然。勝ったのは俺たち魔族だ。」


……………。


「手加減したから、ヒューマン側も死者はほとんどいなかった。もちろん、使いって奴も倒れてはいたが生きてたよ。…倒れて動けない使いにザハゴの1人が近いた。……何をしたと思う?」


スッと目を細め、意味深に聞いてくる。


「…助けたんじゃないの?」


「…普通はそう思うよな?俺もそうだった。…でも違った。…刺したんだ。「こんな奴は女神様の使いじゃない!!」ってな。こいつが悪い、すべての元凶だと。憂さを晴らすように、他の奴らも。…何度も何度も刺されて、死んでいったよ。」


ギルの言葉に目を見開く。


どれだけ無念だろうか。自ら望んで来た訳でもなく、無理矢理戦場に立たされ、同族に殺される。


涙が出た。知りもしないザハゴという国が嫌いになった。


「あー悪い。泣かせるつもりはなかったんだ。」


ばつが悪そうにギルは言った。


「…ザハゴは、今でも魔族と敵対してるの?」


「あぁ、何度か攻めようとしていたな。って言っても相手にならないが。」


「……力の差が分かっててなんで?」


「さっき、神託って言っただろ?女神様の気まぐれか知らねーけど、ひどい災害がある時に、被害の大きく出そうな場所に住んでる奴に、たまに聞こえることがあるみたいなんだ。

でだ、その神託を最初に受けたのがザハゴの奴だったらしくてな、以来、女神様が愛しているのはザハゴだと言い出した。」


えっと、何の話?


「それから、ザハゴは調子に乗ったんだ。「この国は女神様の加護を受けている」ってな。熱狂的な信者も増えて、…あ、それは今でもだけどな。」


「それは魔族と関係ある話なの?」 


「こっちには女神様に会えて、話が出来る魔王がいる。ザハゴはそれが気にくわないんだよ。奴らは魔族を憎んでいると言っていい。魔王が女神様に近い存在だから。」


「えっと、魔王様が女神様に近い存在なら敬うものじゃないの?」


「自分たちと違う者を奴らは受け付けない。魔族は敵。ザハゴの奴らはそう思ってる。」


えっと、ザハゴは自分たちが女神の加護を受けた特別な存在だと思ってる。だから、女神の言葉を聞ける魔王を認めたくない。認めれば自分たちではなく、魔族が特別な存在になると思っているってことかな?


うーん、魔族は敵…ね。女神様が言ってた一部の国は、ザハゴのことか。


「話過ぎたな。そろそろ準備も出来ただろうし、行くか。」


この話はここまでのようだ。


ギルと魔王は部屋から出た。私も後を追う。


誰も話さず、足音だけが聞こえる。


私は思い出していた。


[ヒューマンの多くは魔族を嫌っているもの。嫌いな魔族の血が流れている、つまり見た目は同じでも、違う生き物だと認識している者が多いのよ。]と言ったダリアナ。

そして[昔よりマシだ]と言ったレグル。


魔族とヒューマン。同じ種族でもわかり合うには時間がかかる。別の種族となればもっとだろう。


でも、この時代では一部とだけ、きっと今まで、多くの時間をかけてここまで来たのだろう。


十人十色、生きている数だけ考え方や生き方は違う。


でも差別なく、皆が好きな場所で好きに生きることが出来る日が来ればいいなと思う。


今の魔王の代か、もっと先か。

少しずつでも、いつか…。

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