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様付けはいや!

「じゃあ…えっと、とりあえず座りませんか?」


「…いえ、私はこのままで。」


ラーナをソファーにたくしたが、断られてしまった。


「そうですか…。」


シュンと肩を落とす私に、困ったと笑みを浮かべている。


「シズク様、お気遣いありがとうございます。…ですが、私は使用人の身、お客様と同じ席につくことは出来ません。ご理解ください。」


そう言われると、仕方ない…のか?でも様付けはイヤだな…。


「分かりました。…でも、あの…様付けはやめてください。呼び捨てで構わないので。」


「いえ、呼び捨てなど…。……では、シズクさんとお呼びしますね。」


じーと、ダメ?という視線を送り、しぶしぶ了承してくれた。


「はい!ありがとうございます。ラーナさん。」


笑って言えばラーナも微笑んでくれた。でも、なんというか、…小さな子どもに向けるような…。もしかして、子どもに思われているのだろうか?


「あの、ラーナさん。」


「はい、なんでしょうか?」


私は子どもじゃないので、微笑ましく見るのはやめてください。

…っていうのは違う気がするし、かといってラーナの年を聞くのは失礼だし…。


「えっと…年下の兄弟がいますか?」


「??そうですね。妹と弟がいますが、なぜですか?」


「あ、いえ、なんとなく優しいお姉さんって感じがして…。聞いてみただけです。」


「ふふっ、そうですか。…シズクさんは妹、という感じがしますね。どうですか?」


ドキッとした。兄の話はあまりしたくない…。話せば話しただけ消えてしまいそうで…。


「あ…まぁ、そうですね…。でも私は真ん中で、姉でもあるんですよ!…と言っても、この世界にはいないんですけど…。」


沈んで、上げて、沈んでと見てる方は反応に困るだろう。


でも、ラーナは私の浮き沈みより言葉に引っかかっているようだ。


「この世界には?…えっと、どういうことでしょうか?」


あ、ラーナは、私が異世界から来たって知らないんだ…。

言ってもいいんだろうか?


「………。あの、多分あとで知ると思いますけど…。私、別の世界で1度死んで、その原因が…まぁ、この世界の女神様で…。お詫びにってこっちに生き返らせてくれたんです。」


「……別の世界。……女神様。」


呟いたきりラーナは何も言わなくなった。キャパオーバーというやつだろう。


急にこんなことを言って、頭がおかしいと思われるかな…。


「ラーナさん?」


不安になりラーナに声をかける。どこを見ているか分からなかった目が私に向く。

数秒し、ハッと正気を取り戻した。


「申し訳ありません。…それと、やはりシズク様とお呼びいたします。女神様と縁のある方を馴れ馴れしく呼ぶなど、私には出来ません…。」


「…どうしても、ですか?…私自身はただのヒューマンです。様付けされる身分ではないですし。…私、ラーナさんと仲良くなれたらいいなって思ってるんです。」


沈黙が続く。

そこにガチャッと扉の開く音がした。


入って来たのはギル。そして魔王。


2人に、いや魔王に気がついたラーナは、胸に両手を添えて膝まずく。おそらく、最上級の礼なのだろう。


私もやるべき?

とりあえず、ソファーから立ち魔王たちと向き合う。


魔王が私を見たが、機嫌を損ねてはないみたい。このままでいいか。


「立て。」


一言、魔王が言えばラーナは立ち上がり姿勢を正す。


ラーナを見ていると、魔王が私の近くまで来ていた。2歩ほどの距離で止まり、じっと私を見ている。


「??どうかしましたか?」


「…いや、街はどうだった?楽しめたか?」


「はい、楽しかったです。活気があって、皆さんここが好きなんだって伝わって来て…。良いところですね!」


「…そうか。気に入ったならいい。」


優しい目が向けられる。

なんだか、いたたまれない…。


魔王から視線を反らし、次に目に写ったのは、目を見開き静かに驚くラーナだった。


どうしたんだろ?驚くこと、何かあったかな?


ラーナの様子に内心首を傾げていると、ギルが話しかけて来た。


「ところで、2人で何の話をしてたんだ?[私には出来ません。]とか[ただのヒューマン]とか聞こえたけど。」


「えっと、ラーナさんが私を様付けで呼ぶから、それがイヤで、さん呼びに変えてもらったんだけど、女神様の話をしたら、女神様に縁がある方を馴れ馴れしく呼べないって、様付けに戻っちゃって…。どうやって説得しようかなって思ってるところ。」


「なんだ、そんなことか。本人がいいって言ってるんだ、気のすむように呼んでやればいいだろ。」


「ですが…。」


じーと、ラーナに向けられる3つの視線。

私の期待のこもった視線。

ギルの面白がっている視線。

そして、無表情の魔王の視線。

(無言のプレッシャーをラーナは感じていた。)


「……分かりました。シズクさん。」


そう呼ばれて、ガバッっとラーナに抱きつく。


「ありがと〜。ラーナさん!」


喜ぶ私に、仕方ないな…、と少し困った、でも優しい笑みを浮かべるラーナ。


「よし、解決したな。飯にしよう!飯!」


ギルがそう言い、せっかくの抱きつきタイムが終わってしまった。ちょっと残念…。

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