ギルside & シズクside
*ギルside*
シズクと別れ魔王がいる執務室へ向かう。扉の前に着き、ノックをした。
「入れ。」
と、部屋の主から許可が出た。
部屋に入ると、中には魔王1人。こちらを見ることなく、机の書類に次々判を押している。
「帰ったぜ。」
「あぁ。……彼女は?」
書類に目を向けているが、手は止まっている。
「今は別の部屋にいるよ。…ところで飯は食ったか?俺らは今から食うんだが。」
「…まだだ。……どこだ。私も行こう。」
いつもなら食べないか、執務室に用意させるのにな。
やっぱりシズクは他と違う、か。
こいつが他の誰かを気にするのは珍しい…。案外分かりやすい奴だったんだな。
「……なんだその顔は。」
眉間にシワを寄せ睨まれる。無意識に顔がニヤついていたようだ。
「いや、あっちに行ってた間にずいぶん変わった、と思ってな。」
俺の言葉に、[意味が分からない]という顔をしている。
まさかと思っていたが、無自覚のようだ。
「いつもなら誰かと、なんて思わないだろ?それが、シズクと一緒に食べようとしてるんだ。充分な変化だろ?」
「………。そうか…。だが、それはお前もだろ。会って間もない相手を、自ら案内するとはな。…なぜだ?」
確かに、普段なら知らない奴の世話をかって出るなどしない。
「確認したいことがあったんだよ。…まぁ、結局分からなかったけどな。」
お手上げだというように曖昧に笑えば、怪訝な顔をされる。
「安心しろよ。俺も気に入ったからな。危害を加える気は微塵もない。…あー、気に入ったってだけで他意はないからな。そこも安心していいぞ!お前の敵になることはない。」
「?なぜそんな話になるんだ。それに、お前が私に敵対した所で負けは決まっているんだ。わざわざ言うことではないだろ。」
こいつ…。確かにそうだが、少し悔しいな。それに、俺は恋敵にならないって意味で言ったんだが。…分かってないんだろうな。
「一応言っとくが、敵って言っても恋敵の方だぞ。」
ますます意味が分からないと眉間にシワを寄せている。
「…恋敵?何を言ってるんだ。」
本当は、自分で気づくのが一番いいんだろうが…。俺は回りくどいのは苦手だ。
「だーかーら、お前シズクのこと好きだろ?俺はシズクに恋愛感情はないから、そういう意味で敵にはならないってことだよ。」
目を見開き驚いているのか、一瞬動きが止まり、考えるように下を向く。数秒後、真剣な目が俺に向けられた。
「………ギル…好き、とはなんだ?」
…本当に分からないのだろう。そもそもこいつ、魔王には家族と呼べる者がいない。愛情というものを知らずに育ったのだから分かるはずもない。
「…そうだな。一緒に居たい、相手を知りたい、喜ばせたい、相手といて安らぎを感じる、とかか?」
「今までお前にそんな相手がいたか?記憶にないが。」
「あ?……いない。」
っふ、と小バカにしたように鼻で笑われた。
「なら、あてにならないな。」
「……じゃあ、他の奴にも聞いてみろよ。それぞれ意見は違うだろうからな。参考にすればいい。…とりあえず、シズクが待ってるんだ。この話は終わりにしてそろそろ行こうぜ。」
「…あぁ。」
そう言ってイスから立ちこちらに来る魔王。俺は扉を開け魔王と共にシズクが待つ部屋へと向かった。
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*シズクside*
ギルが部屋を出て少しして、ノックの音が聞こえた。
ギルに用かな?でも今いないし、…返事したほうがいい?
迷っていると、再度ノックの音がした。
「あ、はい!」
これ以上待たせてはいけない気がして返事をすると扉が開いた。
「失礼いたします。」
入って来たのは、20代くらいのウサギの獣人メイドだった。丁寧なお辞儀をされ、慌てて立ち上がり、私も礼を返す。顔をあげてギルはいないことを伝える。
「あ、えっと…今、ギルはいなくて…。」
「はい、存じております。ギル様にお茶をお出しするようにと言い付かって来ましたので。」
慌てる私を安心させるためか、にこりと笑いかける。
「どうぞ、お掛けになってください。」
「あ、はい…。」
ソファーに座ると、一緒に持って来ていたワゴンからカップなどが出てくる。
手際よく紅茶が入れられ、お菓子や軽食が入った皿と一緒にテーブルにおいてくれた。
「どうぞ。ギル様が戻られるまで、ゆっくりなさってください。」
「ありがとうございます。」
お礼を言ってカップを手に取った、紅茶のいい香りに緊張していた力が抜ける。
一口飲んで、ほーと息を吐く。
「お口に合いましたか?」
「はい、とても美味しいです。」
そういうと、優しい目を向けられた。
この人もヒューマンに偏見はないみたい。仲良くなれるかな?
「あの、私シズクって言います。えっと、…良かったらギル…様が帰って来るまでお話しませんか?」
この人に限らず、ギルは様付けされている、今更だが私も様を付けてみる。本人がいいと言っても、上の立場の人を呼び捨てにされて不快に思うかもだし。
「ふふっ。えぇ、私でよろしければ。私はラーナと申します。以後お見知りおきください。」
ラーナは、取って付けたように様付けしたことに笑ったのか、でも不快には思っていないようだ。