願い
串焼き屋をあとにして、他の屋台や店もギルに案内してもらった。
食べ物系が多いけど、中には木や陶器、ガラスなどの加工品やアクセサリーなども売られている。そして、ポーションや魔石を使った道具もあった。改めて見ると、ここは異世界なのだと実感する。
「一通り見たな。そろそろ戻るか。」
私たちが街に出て約3時間。メインの道は覚えたし、次に来た時は、案内なしでも大丈夫だろう。
「そうだね。皆お腹空いてるだろうし、戻ってお昼ご飯にしないと。」
食べ物を色々買ったから、お昼に皆で食べよう、と少しワクワクしながら、城へ戻る道を歩いていると、ギルに「なあ。」と声を掛けられる。
「そういや、皆って誰だ?」
「ん?私が契約してる子たちだよ。私が来る時、魔獣に乗ってたでしょ?あの子の他に5体契約してるの。今の私の家族だよ。」
「そっか。家族…ね。」
少し寂しそうに、ギルは遠くを見ている。
「そういえば、ギルは前の魔王様の息子なんだよね?なのにギルが魔王じゃないんだね。」
「あぁ、魔王は魔王になるために生まれるからな。魔王の子でも魔王にはなれない。」
やっぱり、ドラゴンと同じなのかな…。
「…ねぇ、魔王様の名前ってあるの?」
「…ないな。」
「どうして?誰か名付け親になったりしないの?」
「魔王は俺たちにとって絶対の存在だ。俺たちが簡単に名付けていい相手じゃないんだよ。……でも、きっといつか、あいつにも…。」
立ち止まり、空を見上げるギルは、悲しそうな、哀れんでいるような、何とも言えない目をしていた。
魔王の名前、条件のようなものがあるのだろうか?でも、ギルの様子からすると、簡単ではないのかもしれない。それでも、空を見ているギルは、いつかの日を願っているようにも見える。
「ギルは魔王様の名前を呼びたいんだね。」
空から私に目を向け、ギルは優しく笑う。
「そうだな。その時が来ればいいと思ってるよ。」
「なら、私も。1人より2人の願いの方が、叶う確率は上がるかもだしね!」
「…そうだといいな。」
「ふふっ、大丈夫だよ!魔王様の次に強いギルと、ヒューマンの中では強いらしい私の願いだもん!根拠はないけど、大丈夫な気がしない?」
「ふっ、なんだそりゃ。…まぁでも、そんな気がしてきたよ。ありがとな。」
よかった、少し寂しそうに見えたから…。ギルには笑ってて欲しいな。
「あいつの名前…。案外遠くない未来の話になるかもな。」
ギルが、ポツリと何か言っていたけど、私には聞こえなかった。でも、悪いことではないのだろう。だって…優しい顔を、していたから。
ギルと話していると、あっという間に城に着いた。
私は応接室のような所で待っているように言われ、ギルは魔王の元に向かった。