検問所
他愛ない話をしながら、ギルと城を出てしばらく。ついに街に着いた。街の名前はリーシャ。城から1番近いだけあって大きな街だ。
身分証を作れる検問所は、今いる場所とは正反対にあるらしい。向かう道中に店や屋台がたくさんあった。
店と屋台はそれぞれエリアが分かれていて、屋台は許可が出ている場所ならどこでも出せる。ただし良い場所は早い者勝ちみたい。
店は1階が店、2階が自宅となっているところが多い。
あと、メインの道から外れた所に、住む家やアパートのような数階建ての建物もあると教えてくれた。
見た感じ活気溢れる街っという印象だし、ヒューマンの私を見ても嫌な視線はあまり向けられない。まったく、ではないからベトラーのようにヒューマンを嫌っている魔族は他にもいるのだろう…。
「着いたぞ。」
はぐれないように、ギルの後を歩いてキョロキョロしている間に、検問所に着いたようだ。
受付のような所で、街に入る人が何かを見せている。あれが身分証なのだろう。
ぼーと見ていると、ギルは受付の近くにある戸を開ける。すると、中が慌ただしくなった。
「ギル様!?なぜこちらに?何か不手際がありましたでしょうか!?」
検問所で1番偉い魔族なのか、急なギルの訪問にものすごく焦っている。
「いや、身分証を作りに来ただけだ。」
「み、身分証でございますか?どなたの…。」
少し遠くからやり取りを見ていると、ギルがこちらを向いた。
「なんでそんなとこにいるんだ。こっち来いよ。」
言われるがままギルの隣に行くと、先ほど焦っていた魔族が一瞬目を見開いた。でも、すぐに鋭い視線が向けられる。
「とりあえず、中に入ってください。」
そう言われ中に入り、2階に案内された。小さな会議室のような部屋だ。
イスに座り一息ついた所で、さっきの魔族が口を開く。
「…ギル様。なぜ身分証を持っていないヒューマンが街に入っているのですか?」
「ちょいと訳ありでな。とはいえ、この子の存在は魔王様も知ってる。お前が口出し出来る問題でもないんだ。さっさと準備しろ。」
暗に何も詮索するな、と言っているのだろう。
魔王様が知っていて、ギル様がわざわざ連れて来た。それだけ、このヒューマンは重要な存在と言うことか…。
「…分かりました。では、こちらに記入してください。」
羽ペンと紙が机に用意された。
項目は、名前・年齢・種族と簡単なものだ。
そこで気づいた。字が読める、と。書かれているのは見たことない文字なのにだ。そして書くことも出来る。これもシアのおかげなのだろう。ホントにシア様々だ。
「書けました。」
書き終わりそう言うと、針を渡された。
「ここに血を押してください。」
紙に書いた名前の横に押すように言われ、恐る恐る針で指を刺し血を出した。紙に押して作業終了。
なんだか疲れた。と思っていると紙が光り、カードくらいの大きさになった。これも魔法の一種なのだろう。
「これが貴女の身分証です。どこの街にも入る際に必要なので、なくさないように気をつけてください。」
「はい、ありがとうございます。お世話になりました。」
丁寧に頭を下げると、少し驚かれた。
「いえ、仕事ですので…。」
無事に身分証を作り、再びお礼を言って検問所から外に出た。
「よし、終わったな。行きたい所はあるか?」
ギルに聞かれるもすぐには思い付かない。
「うーんと、とくにないけど。ギルは買いたい物あるんだよね?何買うの?」
「買う物?……あーなんだっけ?忘れたな…。」
きょとんとした後、ギルは目をそらす。
……もしかして、最初から買うものなかったんじゃ…。
私に気を使わせないための口実だったとか?
…でも、なんで?みんな忙しそうだったけど…。なんで、初めて会った私にそこまでしてくれるんだろ?
…それにギルといると安心するのはなんで?
「ねぇ、ギル。」
「ん?なんだ?」
「私と…(どこかで会ったことある?)」
思っていることを言っていいのか分からず、言葉を詰まらせた。
「どうしたんだ?」
言いかけて黙った私にギルは首を傾げる。
あ、どうしよう…。
会ったことあるか、なんて聞いた所で答えは[ない]だろうし…。
「えっと…。ギルのオススメがあったら教えてほしいな!」
空気を変えようと明るく提案したけど、ギルは腑に落ちないといった感じだ。
でも、何も聞いては来なかった。
「…そうだな。なら屋台に行ってみるか。」
そう言うと、ギルは歩き出し、私もはぐれないように後を追った。