優しい…よ?
城を出て、ギルの隣を歩く。
門が閉まり、城の人たちが見えなくなった所で声をかけた。
「人前だと魔王様へのしゃべり方違うんだね。」
「そりゃーな。兄弟みたいに育ったからって、あいつは魔王で俺は臣下の1人だ。礼儀はわきまえないとな。」
「そっか。お互い立場があるんだもんね。仕方ないか。」
「そういうことだ。…でも、帰って来たあいつ見て驚いたよ。いつも張り積めてるっていうか、ピリピリしてるのにな。別人みたいだ。」
驚いた、というけどギルは楽しそうに見える。
「そうなの?」
「あぁ。何かあったのか?」
何か、と言われても私に心当たりはない。
「ないと思うけど…。最初からあんな感じだったよ?」
「最初から、ね…。」
疑っているのか、少し含みのある言い方だ。
「あ、そういえば会ってすぐ威圧されたな…。」
そういうと、ギルは意地悪そうにニヤニヤしだした。
「へぇー、泣いたか?」
「泣かないよ!…いや、怖かったけど……。負けたくなかったから、逆に笑ってみたの。」
「笑ったって…。珍しい反応したんだな。あいつに威圧された奴は、大概震えて何も言えないか、泣きながら命乞いするか、だからな。」
「そうなんだ…。確かに最初は怖かったけど、話してみたら魔王様優しいし、実際は怖くないのにね。」
そう言いながら進んでいると、並んで歩いていたギルの姿が視界から消えた。不思議に思い後を振り返ると、何に驚いているのか、あんぐりと口を開け固まっている。
「ギル?どうしたの?」
声をかけ、顔の前で手を振ってみると視線が向き、ゆっくりと口を開いた。
「…………優しい?……誰がだ?」
「ん?魔王様だよ。……私ね、魔王様の前で泣いちゃったんだ。あ、怖かったからじゃないからね!…まぁ、その時に慰めてくれて…。」
「あいつが?…そういやさっき、ベトラーから庇ってたな…。……!まさか…いや、でもなー…。」
何やらぶつぶつと悩み出し、しばらく立ち尽くしていたけど、考えるのを止めたようだ。
「はぁー、俺が悩んだ所で意味ないな…。帰ったら直接聞くか。よし、シズク!さっさと用事済ませて戻るぞ!」
「え、うん…。」
どうしたんだろ?魔王様に何か聞くってことかな?
まさか…、魔王様に何かしたんじゃないかって怪しまれてるってことはないよね…。精神魔法、チャームとか…。
「あの、ギル!私ホントに何もしてないからね!精神魔法使えないから操ったり出来ないからね!」
「は?急にどうした?」
いきなり弁解し出した私に、ギルは目を丸くする。
「え、だって…魔王様に何かしたんじゃないか、って疑ってるんじゃないの?だから、早く確認に帰りたいんでしょ?」
「いや?そんなこと思ってない。…と言うより、あいつに精神魔法使った所でやり返されるだけだぞ。もし、シズクが使ったなら、今頃正気でいられるはずがない。」
さらっと怖いこと言ってる…。
「まぁそういうことで、精神魔法うんぬんで疑うことはないから安心しろよな。」
笑顔を向けてくれるギルだけど、安心していいのか、逆に不安になって来た…。魔王には逆らわないようにしよう…。