行ってきます
「あんまり気にするな。あいつはああいう奴なんだよ。」
慰めのつもりなのか、グリグリとギルは頭を撫でる。
「仲良くなれないかな…。」
「…なりたいなら頑張ればいいだろ?」
ギルの言葉に弾かれたように顔を上げる。
「うん、そうだね。頑張る!」
吹っ切れたように笑う私に、優しい目が向けられる。
「……ギルって、弟か妹がいるの?」
ギルは、驚いたように目を見開いた。
「…いや、いない。どうしてだ?」
「うん?なんとなくお兄さんっぽいから?」
「…………。」
無言になったギル。言ってはいけないことを言ったのかもしれない。
「あの、気分を害したなら、ごめんなさい…。」
「いや、そうじゃないんだ…。謝らなくていい。不安にさせて悪かったな。」
そう言って、また頭を撫でる…。でも、その顔は少し寂しそうな、…複雑な表情だった。
「そういや、これからどうするんだ?」
ギルは、撫でるのを止め、さっきの表情が嘘のように笑顔になった。
…気にはなるけど、聞かない方がいいよね?
「えっと、とりあえず身分証を作りに検問所に行くよ。後は、…とくに決めてない。」
「そっか。誰かと行くのか?」
そういえば、決めてないや…。
「えーと。……誰か着いてきてもらえますか?」
「私が!」
と、ダリアナが真っ先に反応した。が!仕事が溜まっていると言っていたので、「ダリアナは仕事があるんでしょ?頑張ってね!!」と、声援を送りつつ断る。
ガックリ、とダリアナはうなだれているけど、こればかりはどうしようもない。
でも、他の皆も仕事があるのか、顔を見合わせて決まりそうにない。
仕方ない、案内なしで行くか。
そう思っていると、ギルが仕方ないな、と苦笑を浮かべ言った。
「…俺と行くか?買いたい物もあるし、ついでだ。」
「いいの?仕事は?」
「俺、今日休みなんだよ。暇潰しに案内してやる。」
「…じゃあ、お言葉に甘えようかな。よろしくね!」
「あぁ、まかせとけ。」
ギルが案内役に決まった所で、裏庭から移動。
裏口から城内に入り、廊下を進む。
魔王の城と言うと、暗いイメージだけど、そんなことはなく。
窓から日の光が入り明るい廊下。白を基調にした壁、所々に花が飾られていて、ほんとに魔王の城かと疑いたくなるほど居心地が良さそう。……だけど。
当然、城内には魔族の人たちがいるわけで…。魔王たちと一緒にいる私に、様々な視線が向けられる。
居心地のいいとは言えない視線にさらされながら、しばらく歩いていると、どうやら表に出る扉に着いた。
その扉を開け、外に出ると門があり、そこに門番らしき魔族が数人立っている。
彼らは、魔王たちが来たことに気づき一礼した後、定位置に戻る。
皆に送ってもらい門の前に来て、いよいよ街に行ける!と興奮気味の私。そんな私の耳に、魔王とギルの会話が聞こえた。
「では魔王様、行ってまいります。案内が終わりましたら、城にお連れしてよろしいですか?」
他の魔族の前だからか、さっきまでの砕けた感じがなくなった。
魔王は1つ頷く。
「あぁ。帰ったら私に知らせろ。」
「かしこまりました。では、行ってまいります。」
「い、行ってきます。」
魔王に一礼し、歩き出したギルの後を慌てて追いかける。