初めての対面
湖から出発して、約30分。歩いて1時間かかると言われていたが、ベリルたちのおかげで早く着けた。
魔王たちが言っていたように、裏庭と思われるキレイに整理された芝生などが見えてくる。
そこには、数人の人影があり、私たちが地面に降りると、魔王の帰りを待っていた人達が腰を折り、先頭にいた男が口を開く。
「陛下、お帰りなさいませ。」
「あぁ。」
短いやりとりが終わり、先頭の男は顔をあげ、後ろに控えていた者たちに視線を送る。視線を受けた彼らは、ペガサスを連れこの場を去った。
「その方がシズクさんですか?」
「そうだ。」
この場にいるのは、私たちと去らずに残った2人だけ。
2人の視線が私に向けられて、少し居心地が悪い。
「えっと、シズクです。よろしくお願いします。」
視線に耐えられず、頭を下げ挨拶をする。
「えぇ、こちらこそ。私は宰相のベトラーと申します。以後、お見知りおきを。」
笑顔で言っているけど、目が冷たい…。なんでだろ?
「俺はギルだ。よろしくな。」
もう1人も名乗ってくれた。こっちは普通だ。
ベトラーさんに、ギルさんか。
ん?ギルって確か。
魔王とギルを交互に見ていると、ギルは不思議そうに首を傾げ、私が聞きたいことを察した魔王が口を開いた。
「そうだ。こいつがギルだ。」
やっぱり!魔王と一緒に育ったギルってこの人なんだ。
「魔王様の大切な方なんですよね?」
そういうと、周りの人たちは目を見開き、声もなく驚いている。
「はぁー!?何言ってんだ!?」
そんな中、いち早く正気に戻ったギルが、声をあげた。
「え?だって魔王様とは兄弟みたいな関係なんですよね?一緒に育ったって聞きましたよ?」
「そりゃ、そうだが…。こいつが大切に思うわけないだろ。いつもあしらわれてるんだぜ?酷くね!?この間も「お前がうるさいのが悪い。」」
魔王を指差しながら、日頃どんな扱いをされているか、ギルは語ろうとしたが、魔王が口を挟み、話が途切れる。
ギルは、うるさいと言われたのが気にくわなかったのか、「は?どこがだよ!?」
と魔王に詰め寄る。
今の2人を見る限りでは、仲良しかは分からないけど、少なくともギルは魔王にとって特別な存在なんだなって思う。
魔王をこいつ呼ばわりしたり、指を指したりなんて、普通の魔族なら出来ないだろうし…。
何より、ダリアナたちとは距離間が違うように思った。
それに、今の2人はじゃれあってる兄弟に見えて、なんだか微笑ましい。
「ふふっ、仲良しですね。」
「……あんた、頭大丈夫か?」
「えー、その言い方はないと思います!」
何言ってんだ?という目を向けられ、それに少しムッとしたように返すと、魔王が味方をしてくれた。
「そうだな。ギル、謝れ。」
「は!?2対1は卑怯だろ!?」
ギルは1人でわーわー騒いでいるけど、魔王は相手にしていない。
なんか楽しい人だな。でも、なんでだろ?ギルを見てると少し懐かしい気がする…。
「急に黙ってどうしたんだ?」
ギルは、静かになった私を気にかけてくれる。
初対面だけど、彼はいい人みたい。
「いえ、少し考え事…、というか…。なんか懐かしくて…。」
「……そうか。奇遇だな、俺もだ。」
ギルと視線が合う。しばらくして、どちらともなく笑った。
「改めてよろしくな、シズク。俺のことはギルでいいぜ。」
「ふふっ、はい。よろしくお願いします。」
「あ、敬語もなしな。なんか違和感あるんだよ…。」
「??わかりま…分かった。」
「よし!」
そう言って、私の頭を撫でる手は、兄に似ている気がした…。