なんでそうなるの!?
おー!ペガサス!本物!?
美しい毛並み、光沢のある羽。
実際いたら見てみたいランキング5位のペガサスが目の前に!
あ、ちなみに
1位 人魚
2位 妖精もしくは精霊
3位 ドラゴン
4位 獣人
だったんだけど、1位以外は早くも会っちゃってるんだよね。
ま、今はペガサスだ。
めっちゃ触りたい!!
食い入るように見ていた私に、ペガサスの1頭が近づいて来た。
少し距離をおき、私を観察するように、ジッと見ている。
他の子は白いのに、この子だけ黒だ。…でも凄くきれい。
「あの、触ってもいい?」
ペガサスに言葉が通じるか分からないけど、私の言葉に、ペガサスは少し目を細め、更に近くに来てくれた。
いいってことかな?ホントにいいの!?触っちゃうよ!?
少し手を伸ばせば触れる位置。内心興奮しつつも、怖がらせないようにゆっくり手を伸ばす。まず、鼻の上辺りを撫で、嫌がる素振りがなかったので、顔や体、羽も触らさせてもらった。
うん、満足!
「気に入ったか?」
そう声をかけたのは魔王。この子は魔王のペガサスみたいだ。
「はい!もう、ずっと一緒に居たいくらいです!」
興奮気味に言う私に、魔王は苦笑している。
「ふっ、そうか。だが、こいつはダメだ。城に着いたら他のをやろう。」
「え!?いや、大丈夫です!いりません!!」
慌てて拒否すると、少し眉間にシワを寄せる魔王。
「…なぜだ。気に入ったのだろう?」
「まぁー、はい。魅力的ではありますけど…。さすがに貰えません。」
欲しいか、欲しくないなら欲しいけど…。
「なぜだ?遠慮はいらない。」
「え?えっと…。!もふもふ要員はスピネルたちがいるので!それにもらう理由がありません!」
「理由?」
もふもふ要員はさらっと流され、何が気に入らないんだ?と首を傾げる。
「はい。だいたい会って間もない人に、何か貰うのって気が引けるというか…。」
なんと言えばいいか分からず、語尾が小さくなる。
「…女は欲しがる生き物だろ?」
「………は?」
どういう意味?
「…今まで、私にすり寄って来た女たちは宝石や服、色々と欲しがった。」
「…………。」
「理由がなければ、渡してはいけないのか?」
真っ直ぐな目を私に向ける魔王。まるで子供が分からないことを聞くみたいに純粋だ。
「いえ、渡すのは魔王様の自由です。…でも、欲しいと言われたからって、誰彼構わず、と言うのは辞めた方がいいと思います。…その、誤解する人もいるかもだし…。」
「誤解?」
「えっと、魔王様の恋人とか?」
「いないが?」
「いや、だから!私が恋人よって勘違いする人がいるかも、ってことです!」
そういえば、魔王が渋い顔をした。
「…………。」
「……いたんですね。」
「あまりにもしつこく付きまとって来たのでな、何が望みか聞き、与えた。次の日から自分は婚約者だと、のたまっていたな…。」
呆れを含んだ目で魔王を見ていると、ルークが近くに寄って来た。
「その方には、速やかにお引き取り願いましたがね。魔王様は、物をねだられたからといって、与えていた訳ではありませんよ。と、言うより相手にしていませんでした。」
「そうなんですか…。」
「えぇ、誰にもです。ですが、1人しつこく粘る仕方ない方がいまして、手切れとして渡した物をなぜか、自分を認めてくれたと勘違いしたのです。」
魔王相手にすごいな…。
「ですので、安心してくださいね。」
ん?何が?
「安心、ですか?」
よく分からないけど、優しい目で見られているのは分かる。
「はい。…ところで、なぜそのような話になったのですか?」
どうやら、始めから聞いていた訳ではないようだ。
「私が、ペガサスをやると言うのに断るのだ。」
不服そうに言う魔王に、ルークは「なぜ、ペガサスを?」と首を傾げる。
「ペガサスが欲しいのですか?」
ルークにそう聞かれ、私はふてくされたように答えた。
「欲しいなんて言ってません…。」
それを聞いた魔王は、また眉間にシワを寄せている。
「一緒に居たいと言っただろ。」
「居たいとは言ったけど、あれは言葉のあやというか…。とにかく欲しい訳じゃありません!」
はっきり断わる私と、なぜ、断るのか分からず、納得出来ない魔王の、静かなにらめっこが数秒続いたが、先に折れたのは魔王だった。
「………分かった。」
良かった…。しぶしぶみたいだけど、諦めてくれたよー。
これでこの話は終わり!と一安心した時だった。
「なら、何が欲しい?」
「え?」
何か言い出したよ!?
「ペガサスはいらないのだろ?別の物をやるから、欲しいものを言え。」
………なんか意固地になってる?どうしようか?
と、困っていると、ルークが間に入る。
「魔王様、お聞きしたいのですが、よろしいでしょうか。」
魔王は、ちらっとルークに視線を向け、軽く頷く。
「では。そもそも、なぜペガサスをあげよう、などと思ったのですか?」
「……………。そう思ったからだ。」
たっぷり間を置き考えていたけど、[なぜか]と聞かれているのに、自分でも分かっていないようだ。
「そうですか。(さて、どうしたものか…、おそらく彼女に喜んで欲しいと思っているのでしょうが、無自覚のようですし…。)」
ルークが何やら悩み出した。
とにかく、欲しい物はないから断るとして。あ、でも、…お願いしてみようかな?
「あの、今はとくに欲しい物はないです。…でも、その、お城に行った時はペガサスを触りに行ってもいいですか?」
身長差がある分、まるで上目遣いだけど、引かないでくれるといいな…。
「………あぁ、かまわない。」
「ホントに!?やったー!ありがとうございます!」
魔王の言質は取った!ペガサス触り放題だ♪
はしゃぐ私に、魔王は優しい目を向けていたが、それを知るのはルークだけ。彼は私たちを見守るようにただ微笑んでいた。
「では、そろそろ出発しましょうか。」
しばらくして、ルークが魔王に声をかけ、魔王は頷く。
「あぁ。…お前はどうする?」
どうするって言われても、魔王たちはペガサスに乗って行くってことだよね。6頭しかいないから私は乗れない…。
「私はベリルに乗せてもらいます。」
なぜかは分からないけど、ベリルたちは空を飛ぶ(駆ける)ことが出来る。羽もないのに不思議だ。
「…そうか。行くぞ。」
何か言いたげだったけど、気のせいかな?