今日もお泊まり
今日も、魔王一行はお泊り。明日の朝、帰るという話が終わった後、ガムルが良いことを思いついた!という顔をして「なあ!」と話し始める。
「嬢ちゃんも一緒に来るか?俺らと一緒なら、疑われることはないだろうしな!」
ガルムの言葉に「確かに…。」とルークが頷く。
「とりあえず、身分証を発行しに行きませんか?ヒューマンが街の中にいるのに、身分証を持っていないというのは怪しいですから。」
うーん、…そうだね!いつかは作らないといけないし、早めに済ませておこう!
彼らと行けば、面倒な説明をしなくてもいいだろうしね!
「そうですね。街も見たいですし、お願いします。」
頭を軽く下げそう言うと、ダリアナがいち早く反応し、パチッとウインクをした。
「まかせて!バッチリ案内してあげる!」
張り切ってくれてるけど、大丈夫かな?
あまりの張り切りように、苦笑いしていると、リズがため息混じりにダリアナに話しかける。
「仕事があるでしょ?」
「少しくらい大丈夫よ!」
「平気、平気!」と言うダリアナを、リズはジト目で見ている。
あ、これダメなやつだ…。
「あの、仕事があるなら、案内はまたの機会でいいですよ?私は基本暇ですから、ダリアナさんが休みの日とかどうですか?」
「うー、分かったわ…。そうしましょ。」
良かった。残念そうだけど、納得してくれたみたい。でも、なんでそんなに案内したいんだろ?
(仕事、溜まってるのよね…。帰りたくないわ…。ハァー)
ため息と共に聞こえた、小さな呟き。
なるほど、現実逃避か。
…ファイト!心の中で応援しますね!!
話が終わり、昨日同様、ダリアナたちとお風呂に入ることになった。やはりというか、ゆっくりは入れなかったけど、慣れた分、昨日よりは楽しく入れたかな?
お風呂から上がり、髪を乾かしていると、ダリアナがシャンプーの容器を持って近づいて来た。
「ねぇ、このシャンプー?とか、よかったら少しわけてくれない?髪の艶が違うのよね!もちろんお金は払うわよ!」
ダリアナは、くい気味に言って来る。
「…お金はいらないですけど。これ、向こうの世界の物なので、広めるようなことはしないでくださいね?」
「分かったわ!」
「ありがとうー!」と、嬉しそうなダリアナを見ていると、ポンポンと肩を叩かれる。振り返ると、リズがおずおずと聞いて来た。
「あの、私もいい?…あ、でも。あなたのがなくなってしまうわね…。」
「大丈夫ですよ。なくなることはないので。」
「え?」
リズは不思議そうに首を傾げる。そんなリズに、私も「え?」と首を傾げ、数秒キョトンとしていたが、「あ!」っと思い出す。
しまった!使ってもなくならないって事、言ってないんだった!
「あー。えっと…。そのー。」
どう誤魔化すか悩んで、目が泳ぐ私を見る2人の目は、まるで獲物を見つけたように、キラリと光っている。
私は、助けを求め、フローラとウィーナに視線を向ける。
あらあら、困ったわね。と、頬に手をあて、微笑んでいるフローラ。
なにやってんだか、と呆れた目を向けるウィーナ。
残念ながら、頼りの2人が助けてくれることはなく、ダリアナとリズに片腕ずつ掴まれ、引きずられるようにダイニングに戻る私。
なんか2人が怖いんだけど…。誰か、助けてー!!
心の叫びは誰にも届かず、ダイニングに到着。
2人にガッシリと腕を掴まれている私に気づいた男性陣は、何事かと戸惑っているが、2人は空いているソファーに私を座らせ、逃さないというように、私の前に仁王立ちしている。
「さて、どういうことか説明してもらうわよ?」
ニッコリと、ダリアナはいい笑顔で私を問い詰める。
「何かあったのか?」
訳が分からない状況に、レグルが説明を求め、ダリアナが答えた。
「何か隠してるのよ。具体的には、なくなるはずの物がなくならない、のよね?」
ダリアナは、一瞬レグルに視線を向けたが、すぐに鋭い視線を私に戻す。
「…言うタイミングがなかっただけで、隠してたわけじゃないですよ?」
聞かれたら答えるつもりだったから、嘘ではない。…はず。
「そう。なら説明して頂戴。」
「…女神様が、元の世界にはあるけど、リーリシアにはないものを使えるようにって…。1日の上限はあるけど、ほぼ無限に使えるようにしてくれました。」
「「「「「「…………………。」」」」」」
沈黙。戸惑い。意味が分からないと考えている者もいる。
そんな中、下を向き静かな声でダリアナが聞いて来た。
「つまり…。あのシャンプーとかも、ほぼ無限?」
「?そうなりますね。」
「やったわ!!それなら気兼ねなく貰えるわね♪」
急に大喜びなダリアナ。さっきの尋問のような雰囲気はどこへやら。
結局なんだったんだろ?
「シャンプー?確か、風呂場にある髪を洗う物でしたね?それが欲しくて問い詰めていたのですか?」
ルークの言葉に、ダリアナは心外だという顔をしている。
「問い詰めた、なんて失礼ね!気になったから、聞いただけでしょ?」
「いや、あれはどう見ても…。」
レグルにも言われ、少しばつが悪るそうなダリアナ。
「仕方ないでしょ。美しい私がさらに美しくなれるのよ!求めるのは自然なことでしょ?」
つまり、キレイになりたいがためにあの迫力だった、と。うん、怖いな…。
そういえば、リズは?
チラッとリズに視線を向けると、気づいたリズは、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
理由はダリアナと一緒ってことでいいのかな?ちょっと意外…。
「確認ですが、あなたは使っても減ることのないアイテムを持っている。そして、その1つがシャンプーで、ダリアナが欲して暴走した。ということでいいですか?」
「えっと…。そうなるのかな?」
「ホント失礼なやつね!暴走なんてしてないわよ!」
………まぁ、うん。きれいになりたいと思う女性は多いし、仕方ないのかな?
ルークはダリアナを無視し、さらに続ける。
「他にもそういったアイテムを持っているのですか?」
「ありますね。いろいろ…。」
「そうですか…。」
顎に手をあて考え込み、パッと顔を上げたかと思えば一言。
「売りませんか?」