帰宅
湖に戻る道中。
「でも、この森に妖精がいたんだね。知らなかったよ。」
「森の管理をしているのですよ。先ほどの薬草は、妖精や精霊が育てているものですし、草が茂っていないのも彼らのおかげです。」
そういえば…。普通なら、伸び放題になっててもおかしくないのに、きれいだもんな。
でも育ててたなら、摘むのはダメだったんじゃ…。
「薬草、摘んでよかったのかな?」
「えぇ、妖精たちは止めに来ませんでしたから、大丈夫ですよ。」
よかった。とりあえず、一安心。
「お礼しないとな…。」
どうして?とフローラが不思議そうに首を傾げる。
「シズクがお礼をするのですか?摘んだのは魔族の方々ですよ?」
「そうだけど…。…正直、森の管理とか考えたことなかったし、家の周りもきれいにしてくれてるってことでしょ?なら、ありがとうってお礼したいなって…。」
フローラは数度瞬き、優しく目を細め、微笑む。
「そうですか…。そうですね。私もお手伝いします。」
「うん!ありがと!」
さて、帰ったら何を作ろうかな!
再び湖に戻り、魔族一行に洞窟の話をした。興味はあるようだけど、闇の精霊王に止められたと言えば、遠目に見るだけで近づこうとはしなかった。
そして、いよいよお昼ご飯!
カツサンド、おにぎり、唐揚げ、卵焼きなど。遠足気分で、はりきって作ったよ!
「お昼食べよ?」
自分の影に声をかけると、すでにいるフローラ以外の皆が出て来る。
すぐに行ける距離を、のんびり歩くのは面倒だ、と家に残った皆。私のいる場所には、影を通じて来られるようになっている。
「米か…。珍しいな。」
レグルが、おにぎりをマジマジと見つめている。
「え?珍しいんですか?」
「水が多く必要だからな。一部の地域でしか栽培していない。」
なら、私がお米を持ってるのはおかしいな…。作らない方がよかった?
…いや、見る見るなくなっていく。作って正解か…。
あっという間に空になり、少しのんびりした後、帰り支度を始める。
ナイト以外は影に入り、歩く気はないみたい。
とはいえ、影に入っても家に帰えれる。ということはなく、影の中にいる。私の元に来るには、影を通じて来られるけど、帰りはムリみたい。一方通行だ。
帰りもとくに変わったことはなく、寄り道をしなかった分、行きより短い時間で家に着いた。
家に入り、皆は影から出て、それぞれに寛ぐ。
ガムルも、まるで自分の家のように寛いでいる…。
「良いものが見られました。ドラゴンの魔石があれほどあるとは…。」
余韻があるのか、思い出しているのか、ルークは少し遠くを見ていた。
「そうね。少しくらい持って帰りたかったわ…。」
ダリアナは、残念そうにため息を吐き、たしなめるようにリズが言う。
「ダリアナ…。気持ちは分からなくはないけど、それは言わないの。」
私がドラゴンの墓とか言ったから、取るのはやめたみたいだ。
でも、洞窟は気になるな…。
闇…か。闇の属性の黒竜。
実際に会った黒竜は、邪悪な感じでもないし、憎悪とかも感じなかった。
洞窟は…、正直よくわからないや。イヤな感じはしなかったんだよな…。
元になるドラゴンたちの性格や感情は関係なく、闇の魔石は闇を引き寄せるとか?
…私は、引かれた気がする。あの時、勝手に足が動いた。あのまま進んでたらどうなってたのかな…?
……私の中にある、消えることのない罪悪感が、闇に引かれた理由?
ドクリッと、心臓が大きく鳴った。考えを消すように、頭を横に振る。
大丈夫…、大丈夫…。もう大人なんだから、感情に流されちゃダメだ。心を強く持たないと!
落ち着こうと深呼吸をしていると、ナイトが頭に手を置き、優しく撫でる。
「大丈夫か?」
はたから見れば、可笑しな行動をしていたのだろう。心配している。
「大丈夫だよ。」
へらり、と笑った私に何か言いたげなナイト。
「そうか…。」
でも、何も聞かない。
ごめんね…。今は言いたくない…。
私の抱える罪悪感は、誰かに言えばスッキリするのかな?
でも、言ってしまったら、忘れて行く気がする…。辛かったことも、楽しかったことも。大切だから忘れたくないんだ…。
私はあの日から進むことが出来てないのかな?
ねぇ、兄さん…。