出発
ダリアナが落ち込んでいたけど、無事に朝食が終わり、準備をして散策に出発!
「よし、行くか!」
「ガルム、迷子にならないようにね?」
「湖に沿って歩くんだぜ?迷ったりしねーよ!」
「…それもそうね。」
ガルムとリズの会話が終わり、私たちは湖に沿って、森の奥に進んで行く。
私たちの家から一番近い結界までは約100m。今はそれがある方向とは逆に進んでいる。
だいたい100m歩いたけど、結界を出た感じはない…。
家があるのは、結界の端の方になるのかな?
「静かだな…。」
レグルが呟き、ダリアナは辺りを見回している。
「鳥の声もしないわね…。」
それを聞き、ガルムは湖を覗き込む。
「湖にも魚はいないみたいだな。」
「魚なら別の湖ですね。川沿いに行って結界を出ると湖があるので、そこにはいますよ。」
私がそういうと、ルークが顎に手をあて考えている。
「結界内で生き物を見ましたか?」
「…そういえば、見てないですね。」
「生き物が住めない環境、ということではないですから、入れないようにしているのでしょうね。」
ルークの言葉にガルムが首を傾げた。
「なんでだ?」
「入れる者を指定できないとか?」
ダリアナの考えをリズが、否定する。
「それだと、魔王様やドラゴンも入れないってことになるわよ。」
皆で頭を悩ませていると、ルークが何か思い至ったようだ。
「……!たしか、闇の魔石は動物や力の弱い者を魔物にする、という伝承がありましたね…。」
「そうなんですか!?」
「あくまで言い伝えです。闇の魔石を制御出来ず飲み込まれるのではないか、とのことですが…。力の強いドラゴンの魔石なら、なおさら…。」
「……あれ?でもなんで言い伝え?動物で試したとかはないんですか?」
「試した者はいるようです。ですが、魔物にはならなかった、と。……条件があるのか、魔石の数が少なかったのか。闇の魔石は、ほとんど見つかることがありません。7属性の中でも、貴重です。」
「へぇ〜。……ん?魔王様が私にくれたのって、闇の魔石…、でしたよね?」
確認のため、私の斜め後ろを歩く魔王に振り向く。
「そうだな。」
「……貴重なんですよね?」
「あれは私が作った物だ。気にすることはない。」
「作った?…そういえば、赤竜が魔力の強い者は作れるって言ってました。」
「…誰でも、と言うわけではないがな。私が知る限り作れるのは私とドラゴン、それとギルだけだ。」
「ギル…さん?」
「あぁ。ギルは前魔王の息子だ。私を除けば、魔族で一番強いだろうな。」
無表情に坦々と話していた魔王が、一瞬だけ口元を緩めた。
「…大切な方なんですね。」
そう微笑みかけると、魔王が足を止める。
「……大切?なぜそう思う?」
何を言っているんだ?と、眉間にシワを寄せている。
「え?なんとなく雰囲気が柔らかくなった気がしたので。…違うんですか?」
そう言うと、魔王は考え始めた。
「………。あれとは一緒に育った。だが、それだけだ。」
「??兄弟みたいなものですか?」
「私に家族はいない。」
「でも、一緒に育ったんなら、家族みたいなものじゃないですか?」
「…血の繋がりはないが?」
「なくても、気持ち次第ですよ。私はフローラたちのこと、家族だと思ってますよ。」
そう笑って言えば、また考え込む魔王。
「………あれが私に気安いのはそれが理由か?」
「え?うーん、…実際会ったことないので、分かりませんが、魔王様に遠慮しないってことは、それだけ親しいってことだと思いますよ?」
「………そうか。」
納得したのか、再び歩き出した魔王。
一瞬見せた表情は、憑き物が落ちたような穏やかな笑みだった。