魔王side ②―2
*魔王side*
…いったい誰を思っている。
代わりになれば、誰でもいいのか?
「…誰でもいいのか?」
「え?うーん、誰でもいい訳ではないですけど…。全く知らない人とかは、さすがに引きます。」
「なら、私に触れられるのは不快だろう…。」
自分で言って、なぜか気持ちが沈む…。
「うーん、今日会ったばかりだけど…。話をして、優しいって分かりましたし、もう知らない人ではないですよ?」
「…優しい?私が?」
冷酷非情と言われる私がか?
「はい!」
先ほどとは、うって変わって、明るい表情。
彼女に触れたい。そう思い、また頭を撫でようと手を上げかけた時。
「まるで、兄さんみたい!」
と、とびきりの笑顔で彼女は言った…。
「兄…さん?」
一瞬何を言われたか分からず、呆然と呟いた。
「はい!…兄は、よく頭を撫でてくれました。…過保護な所もあったけど、私には自慢の兄です。」
また、寂しそうに微笑む。
もう、会うことの出来ない家族を思い悲しんでいるのか…。
家族のいない私には分からない感情だ。
「…そうか。……寂しいか?」
「……そうですね。家族に会えないのは寂しいです。…でも、もう兄とは会えませんでしたから。」
「?…会えない?」
「…はい、私が15の時に、事故にあって…。22で亡くなりました。」
そう言ったきり、うつ向き、黙る彼女。
………なんと声をかけるべきなのか…。身内を亡くした者は周りにもいる。…だが、それは主に戦いの中でのことだ。思い描く、どの言葉も彼女に向けるには違う…。
「ごめんなさい…。なんか変な空気になりましたね…。あはは…。」
無理して笑っているとわかる表情。彼女にとって兄はとても大切な存在だったのだろう…。
「…笑うな。」
「え?」
「……無理して笑うな。…泣きたければ泣けばいい。」
目を見開き、数度瞬きをした後、彼女は………盛大に笑った。
「……っあははっ。兄さんと同じこと言ってる!」
「………笑えとは言ってない。」
「はーはー、ふふっごめんなさい。でも可笑しくて、涙が。………あれ、おかしいな…。止まらなくなっちゃった…。っ、ちょっと待ってくださいね!すぐに止めますから!」
何度も目を擦り、止めようとするも、次から次へ涙が溢れる。
彼女は背を向け見せまいとするが、一向に止まる気配はない。
小さな身体が小刻みに震え、声を殺して泣いている。