魔王side ②―1
*魔王side*
ベッドに入り目を瞑るが、なかなか寝付けず、夜風に当たろうとバルコニーに出た。
辺りは静寂に包まれ、心地いい空気に満ち、月光に照らされた湖は、神秘的な雰囲気をかもし出している。
バルコニーの手すりに寄りかかり、ボーッと湖を眺める。
こうして、過ごすのはいつ以来か。いつもなら書類に目を通している頃だろう。…仕事を終え、寝る。それだけの日々。城に帰ればいつもの日常に戻る。これは束の間の休息。
……そう明日には帰らなければならない。分かっている…。
…だが、なぜこんなにも離れがたいと思うのか。
自らが生まれた地だからか…。
ガラガラッ。
戸が開く音に目を向ける。
「えっと、こんばんは?…眠れませんか?」
私がいるとは思わなかったのだろう。彼女は一瞬、目を見張り、戸惑いながら挨拶をした。
「………。」
確かに眠れず外に出たが、だいぶ夜が深けている。誰にも会わないと思っていた…。
何も言わない私に、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「…なぜ、出てきた。」
「え?あー、スピネルに蹴られて目が覚めて…。少し夜風に当たろうかと…。」
頬を掻き、苦笑を浮かべる。
「そうか…。」
なら、私は邪魔だろう…。そう思い部屋に戻ろうと踵を返す。
「あっあの!…少し、話しませんか?」
まさか、引き止められるとは思わなかった…。
足を止め、じっと彼女を見る。
「…引き止めてごめんなさい。…おやすみなさい。」
何も答えずいたからか、否定されたと思ったようだ。
私を見ていた目は、今は湖に向けられている。
ゆっくりと歩み、彼女の隣に並び湖を見る。
「……ふふっ。きれいですね。ここは、空気が清んでて気持ちいいです。」
「…そうだな。」
「…魔王様は、枕が変わると眠れませんか?」
「いや…。いや、そうかもしれない。」
なるほど、だから落ち着かず、眠れなかったのか。
「困りましたね…。枕はどうしょうもない…。」
「一日寝ずとも問題はない。」
「え〜ダメですよ。睡眠は大事です。」
眠気もあるのか、気を抜いているようだ。昼間とは雰囲気が違う。
今の彼女は素なのだろう。
連絡もなく押し掛けた、知らない者の相手だ。一日、気を張っていただろう。
「えっと…。」
無意識だった。
なぜか私は彼女の頭を撫でていた。
目が合い、戸惑う彼女と、手を置いたまま固まる私。
「「………………。」」
どうすればいい…?なぜ、こうなった?
言い訳を考えるも思考が制御他出来ない…。
「っあはは…。はー。ごめんなさい、なんだか可笑しくて…。」
彼女は急に笑いだし、目には涙を浮かべている。
「…でも、頭を撫でられるのはいいですね。なんだか安心します。」
湖に視線を戻し、寂しそうに微笑む彼女。