魔王side ①
*魔王side*
部屋に入ると、ベッドにテーブルセットとクローゼット。
魔王である私が泊まるには質素な部屋だ。
やはり、帰ればよかったか?
なぜ、そうしなかったのか、自分でも分からない…。ただ、もう少し居てもいいと思った。
女神に言われ、見定めるために会いに来た。我らにとって、無害か有害か…。
【魔王】は多くの者にとっては恐怖の対象だ。
女神が加護を与える程に気に入った者だとしても、それは変わらない。
…そう、思っていた。
最初に、威圧したのはわざとだった。
彼女を守ろうと前に出た、2体の契約者。守られることしか出来ない、か弱いヒューマン。
威圧すれば、震え上がり、恐怖し泣くのだろう。そう思っていた…。
だが、予想を裏切り、彼女は笑った。手を見れば握りしめ、微かに震えている。恐怖はあるのだろう。それでも、負けじと、まっすぐに私を見る彼女から目が離せなかった。
どれだけ時間がたったのか、彼女の戸惑う声で我に帰った。
誰かと聞かれ答えると、呆れた表情を浮かべていたが、なぜだったのか?
それから、彼女がリーリシアに来ることになった理由を聞いた時は、頭を抱えたくなった。いったい女神は何をしてるのか…。
事情としか言わなかったのは、あの場で皆から責められたくなかったからだろう。
この世界についての説明も不充分だ。ここがどこに位置するかも知らず、街に出ようと城に入ればどうなっていたか…。
彼女のことは、幹部たちにしか伝えていなかった。もし、来ていれば兵に捕まり、拷問を受けていたかもしれない。女神の話をしたとしても、信じる者はいないだろう。
または、契約者たちが彼女を守り無事だとしても、魔族を敵と見なせば、魔族を害する存在になったかもしれない。そうなれば、こちらも黙ってはいられない。
現実になったかもしれない未来を考え、そうならなかったことに安堵した。
無知なことに謝った彼女、私がかけた言葉に戸惑い、だが次に笑った。
…初めて見せた、心からの笑み。
直視出来ず、目をそむけたが、それがなぜかは、分からない。
…ただ、鼓動が早くなるのを感じた。
魔石を渡した時、周りが驚いていたが、自分でも、らしくない行動をしたのは分かっている。
じっと魔石を見る彼女。下を向いて表情が見えないことがイヤだった。…だが、目が合えば満足した。
そう思うのは初めてだ。いったい、他と何が違うのか…。ただのヒューマンだというのに…。
私が触れた頬を狐が拭いていたことは不快だ。あれは、私を敵と認識している。
主人に近づく者が気に入らないのだろうが、ガルムなどには敵視していないようだった。なぜだ?あれに対し何かをした覚えはない。