魔族の訪問
私たちが門の外に出ると、10m程の距離まで彼らは来ていた。
私たちに気付き、彼らは歩みを止める。
警戒させたかも…、どうしよう…。
そんなことを考えながら、目を向けると、黒髪の男性と目が合った。
数秒、ジッ…とこちらを見て、彼は再び歩き出した。残りの5人は、突然歩き始めた彼に、慌てて着いて行く。
もう目の前。
ベリルとフローラが私の一歩前に出て、守るように両側に立つ。
男は、警戒している2人には目もくれず、まっすぐに私を見ている。
「お前が、異界から来た者か?」
彼は静かな声で問いかける。
でも、彼の目が偽りは許さない、と言っていた。圧を感じ、緊張で冷や汗が流れる。
でも、怯んだら負けな気がする…。
なんとなくそう思った私は、あなたなんか怖くない、となるべく笑顔で、彼の問いに答えた。
「はい、そうです。私はシズク。貴方は?」
彼は一瞬、目を見張り。私を凝視しする。
観察されてるみたい…。しばしの沈黙が流れる…。
お願いだから、何か言って!?
「あの…」
沈黙に耐えられなくなり声をかける。
「なんだ?」
なんだ?、とな!?もう一回聞くべきなの?
「えーと…、貴方は誰ですか?」
彼は、数度瞬きをした後、一言だけ言った。
「魔王だ。」
…あー。うん、はい…。とりあえず。
「中に入って話ましょうか?」
魔王一行を家に招き、ソファーへ。
とりあえず、今いるメンバーで名乗り合った。
「こちらは後2人いますが、今は外出しているので、帰って紹介しますね。…それで、皆さんはなぜこちらに?」
魔族の人たちの視線が魔王に向けられ、気づいた魔王はチラッと彼らに視線を向けた後、私を見て言った。
「会いに行き見定めろ、と女神が言ったからだ。」
なるほど、やっぱり様子見か…。
「そうですか。ドラゴンたちと同じですね。」
「…ドラゴンと、何を話した?」
魔王が探るように、私を伺う。
「えっと、この森について教えてもらいました。後、私がこっちに来ることになった理由。…それから、貴方…、魔王が来るだろう、と。」
魔王は少し考えた後、別の疑問を口にした。
「こちらに来る際に、女神と話したのだろう?…何を言われた?」
シアと?えっと…。
「リーリシアの簡単な説明と、私の寿命とかについて…。後、私のことを伝えておくから、何かあった時は頼りにして、と。誰かは教えてくれませんでしたが、様子見に来るだろう、って。」
「この森については聞かされていなかったのか?」
「はい…。ドラゴンたちに聞いて、どんな場所か知りました…。」
魔王は顔をしかめ、他の魔族たちも顔を見合せて困惑しているようだ…。
ハァー、と魔王がため息を吐き、話を進める。
「こちらに来た理由は?」
「えっと…。」
またしても、話すことになった死亡理由…。
話終えた後、なんとも言えない空気が漂う。
「…女神様ってドジだったんだな!」
そんな空気を変えようとしたのか、ガルムが明るく声を出し、笑った。
「ちょっと!?女神様に失礼でしょ!一応このリーリシアの神よ!」
「一応って言うのもどうかと思うけど…。」
「ですが、彼女の話が本当なら、フォローのしようがありません…。」
上から、ダリアナ、リズ、ルーク。
魔族の人たちが話あっていると、ベリルの方から不穏な空気が…。
「本当なら、ですか?シズクが嘘をついている、と?」
笑顔なのに、目が笑っていない…。
ちょっ!喧嘩はやめてよね!?
「…いえ、失言だったようです。すみませんでした。」
よかったー!
ルークが謝ったことで、心配は杞憂に終わった。でも納得出来ないのか、ベリルは少し不機嫌みたい。
いつもと様子が違う…。
「ベリル…。どうしたの?」
聞いてみてもベリルは答えてくれない…。
困った私はフローラに助けを求め視線を向ける。
フローラは、理由を分かっているのか、クスクスと笑っていた。
「まだ、親離れは出来そうにないですね。」
ん?どういうこと?
首を傾げているとフローラは私の近くに来て、小声で教えてくれた。
「心配なんですよ。魔族の方と仲良くなって、相手にされなくなるのでは、と。」
ベリルが!?スピネルとかウィーナなら言いそうだけど…。意外…。
でも、そんな心配しなくていいのに。
「ベリル、私はベリルが私から離れたいって思わない限り、ずっとそばにいてもらうつもりだから…。よろしくね。」
気持ちを伝えると、ベリルは目を見開く。そして、嬉しそうに破顔した。
「はい、一生お仕えします。…ルークさん、先ほどは失礼しました。」
ルークに向かいベリルが頭を下げる。どうやら機嫌は治ったようだ。
よかった、いつものベリルだ。
ピリピリしていた空気がなくなり、ほっと一安心。