あちらの様子は?
シズクがドラゴンと話ている頃、魔王が住む城の執務室で、魔王は仕事をしていた。書類に目を通し、サインや印鑑を押す手が黙々と動いている。
そんな中、コンコンと扉をコックする音と男の声が扉越しに聞こえる。
「陛下、ベトラーでございます。」
「…入れ。」
部屋の主から許しを得て、男が部屋に入る。この国の宰相である男の名はベトラー。金髪に赤い目を持つ、ヴァンパイアだ。
「おはようございます、陛下。こちら追加の書類です。」
そういって、持っていた紙の束を机に置く。魔王は無言で追加された束を見るも、何も言うことはなく仕事を進める。
紙が擦れる音と、ペンの音だけが部屋に響く中、魔王は昨夜の出来事を興味なさげに告げる。
「ベトラー…。昨夜、女神に呼ばれた。」
「女神様が…?」
ベトラーは考えをめぐらせた。
女神からの話。それがあるのは、ドラゴンまたは魔王の生死についての話が主だと聞く。
目の前にいる魔王陛下に変わったことはない。だとすると…。
「ドラゴンの死期が近いのでしょうか?」
魔王は手を止める様子はなく、淡々と答えた。
「いや…。異界の者をこちらに連れて来たそうだ。」
ベトラーは驚きに目を開くが、すぐに冷静になり考える。
「異界…、ですか?…所在を調べましょう。」
女神が連れて来たとはいえ、警戒はしておくべきでしょう。
ここで、初めて魔王がベトラーに顔を向ける。
「所在はわかっている。…皆を集めろ。集まり次第、会議を始める。」
話は終わりだ。というように魔王は再び仕事に戻る。
「かしこまりました。」
ベトラーは、指示通りに幹部たちへ連絡をするため、「失礼いたします。」と一礼し執務室を後にした。
そして、昼過ぎ。
集まった者たちが円卓に座り、魔王が来るのを待っている。
「いったいなんの話かしらね。」
そう言ったのは、深紅の髪に青い目のダリアナ。サキュバスで、情報機関のトップ。
「ドラゴンがリシアの森に向かったとか…。関係があるかもな。」
彼は、茶色の髪に目、長い髭が特徴のダン。ドワーフで、武器の管理、制作のトップ。
「ドラゴンが動く程の何かがある、ということか…。」
金と黒の髪に琥珀の目のレグル。虎の獣人で、第一部隊の隊長。
「ま!聞けば分かることだ!」
茶褐の髪に金の目のガルム。狼の獣人で、第二部隊の隊長。
「少しは考えなさいよ…。」
呆れながら言うのは、明るい水色の髪に緑の目のリズ。鳥翼族で偵察部隊の隊長。
「利益のある話ならいいですね。」
薄紫の髪に薄緑の目のルーク。エルフで、財務のトップ。
他にも数人、幹部たちが集められている。