表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/92

リシアの森

「そなたはこの森のことを知っておるか?」


赤いドラゴンが唐突に聞いてきた。でも、その目は真剣そのもの。

知るも何も、昨日来たばかりだし、探索もしていない。


「いえ、知りませんけど…。」


「シア様はなんと言ってあなたをこの森へ?」


黒いドラゴンも真剣な目で問いかける。それに戸惑いつつも、素直に答えた。


「とくには…。住みたい場所を聞かれたので条件を伝えたら、いい場所がある、って言われて…。」


窺うようにドラゴンたちを見ると、2人とも顔を見合わせ、どうしたものか…、と悩み出す。


どうしたんだろ?…まさか、この森って何かまずい物でもあるの!?

悩むほど、言いにくい何かがあるのかと、冷や汗を流し強張る私に、黒いドラゴンが気づく。そして、この森について教えてくれた。


「この森は、[リシアの森]。別名[迷いの森]とも呼ばれています。」


「[迷いの森]?」


「えぇ、許可なき者はこの湖にたどり着くことは出来ません。ここは聖域ですから…。」


「聖域…。特別な場所なんですか?」


首を傾げていると、重々しく赤いドラゴンが口を開く。


「我らが生まれた地じゃ。」


「生まれた、って…。」


巣ってこと?うーん??


「わたくしたちは、普通の生き物と違う生まれ方をします。先代が亡くなった後、湖に光が浮かびそこから、生まれるのです。…出現すると言ってもいいでしょう。」


え?と目を見開き驚く。

そんな大切な場所に住んでいいの?


「ごめんなさい。知らなかったとはいえ、大切な場所なのに…。」


立ち上がり頭を下げる。それに2人は困ったように笑う。


「そなたが気にすることはない。シア様がそなたをこの湖に送ったのじゃ。シア様が許可なさっているなら、我らが口を出すことではないからの。」


「そうですね。それにあなたにはシア様の加護がありますから。」


そっか、加護か…。……ん?加護って何!?


「加護ってどういうことですか!?」


「それも知らんのか…。シア様は説明が足りんのー。」


と、赤いドラゴンは呆れながらも可笑しそうに笑い、黒いドラゴンは呆れ果てている。


「まったくですね…。ようは、あなたはシア様の眷属になったのです。シア様曰く、あなたは自分の分身のようなものだから聖域にいても問題はない、と。なので、気にすることはありません。」


住んでもいい、ということなんだろう…。ありがたいけど…。


「なんか、本当にごめんなさい…。」


謝らずにはいられないな…。


「気にするなと言うとろうに。…じゃが、そなたはなぜ、こちらに来ることになったのじゃ?シア様は事情があるとしか、おっしゃらなかった…。」


「えっと…。」


どこから話そうか?と悩んでいると、「答えたくなければ、無理に答える必要はないぞ…?」と、なぜか気遣わしげに私を見る。


別に無理とかじゃないけど…。なんで、悪いことを聞いた…。みたいな感じなんだろ?私が死んだ理由を話すってことだから、気を使ってくれたのかな?

でも、仕方ないことだし、どうしようもないのだから、今となってはあまり気にしていない。


それから、私は「大丈夫です。」と告げ、経緯を話した。

長い沈黙の後、申し訳なさそうに2人が頭を深々と下げる。


「我らの神がすまんかった…。」


「いえ、不可抗力ですし、色々よくして頂きましたから…。」


可哀相に…、と涙を浮かべる黒いドラゴン。


「何も心配せず、この森に住んでください。困ったことがあれば、わたくしどもに言ってくださいね。」


「はい…。その時はよろしくお願いします…。」


なんだか居たたまれない…。

哀れみが伝わって来て、あはは…。と空笑いが出てくる。


この空気をどうにかして!と思っていると、赤いドラゴンが胸の前で手の平を上し、何かをしようとしていることに気づいた。その様子を見ていると手の平が光、赤い石が現れる。


「そなたにこれを渡しておこう。」


その石を差し出され、おずおずと受けとる。手の平ほどある石は、透き通っていて、乗せている私の手が石越しに見える。


「えっと、これはなんですか?」


綺麗だな…。っといつまでも見ている訳にもいかないので、説明を求める。


「魔石じゃ。魔力の強い者は自身で作ることができる。今のようにな。…何かあれば石に魔力を流すのじゃぞ。飛んで来てやる。」


つまり、連絡をとるのに使えるってことか。なるほど、どうやって呼ぶのかと思ったけど、大丈夫みたい。


「ありがとうございます!…そういえば、名前を聞いていませんでした。」


今更ながら、何と呼べばいいのか分からない…。聞こうと思って、口を開きかけるが、それより早くなんでもないように、黒いドラゴンが答えた。


「わたくしどもに名はありませんよ。」


「え?ない…ですか?」


「我らは一体ずつしかおらんからな。区別するための名はないんじゃよ。」


それでも、呼び名がないのは、少し不便に思える。


「…なら、なんて呼べば?」


「わたくしどもは、身体の色で呼ばれています。わたくしなら、黒、黒竜、黒いドラゴンなど…。好きに呼んでください。」


好きに、か…。〇竜の方がいいかな?


「わかりました。赤竜、黒竜、青竜。」


「ふむ。では、我らは帰るとするかの。他の4体のドラゴンにもそなたのことは伝えておくゆえ、安心して暮らすとよい。」


始めに赤竜が立ち上がり、外へと向かう。それに黒竜たちも続き、私たちも見送りのために外に出る。

ドラゴンの姿になり、帰る準備は万端のようだ。帰る前に、気になることを聞いておく。


「他のドラゴンたちもここに来ますか?」


それに、「いいえ。」と黒竜が首を振る。


「今回は、わたくしどもが代表として来ましたので、しばらくはドラゴンの訪問はないでしょう。」


その言葉に、ホッとする。


よかった。結構緊張するもんな。


「じゃが、あやつは来るじゃろう。」


安心したのもつかの間、他に心あたりがあるようだ。いったい誰が?


「えっと、誰ですか?」


「魔王じゃ。」


なるほど、魔王か…。…………え?魔王?…え!?ホントに!?


「では、邪魔したの。」


「また、会いましょう。」


「遊びに来るね!!」


と、最後の挨拶をして、ドラゴンたちは羽ばたき空へ舞い上がる。

人がパニックになっている間に、ドラゴンたちは帰ってしまった…。


ちょ!?まっ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ