2日目の朝、さっそくの訪問者
この世界で迎える初めての朝。シズクは差し込む光で目が覚めた。
「ふわ〜。朝か…。」
ゆっくり身体を起こし、周りを見回す。
「そっか、家じゃないんだった…。」
いつもと同じ朝…。でも、違う場所。
あまり実感がなく、でも昨日のことが夢ではないと分かると、もう家族には会えないのだと、今更、寂しくなって来た。
沈んだ気持ちで、ボーとしていると、いつの間に起きていたのか、小さなフローラと狐姿のベリルが心配そうに覗き込む。その姿が可愛くてなんだか笑ってしまった。それに安心したのか、ホッとする2人。
「おはよ。」
私の挨拶に2人も、「「おはようございます。」」と返す。それから、ナイトも「おはよう。よく眠れたか?」と聞いてくれて、それに頷く。少し遅れて、ウィーナとクアが、『「おはよー…。」』と寝ぼけたまま挨拶する。
やっぱり誰かがいてくれるっていいな…。働き出して一人暮らしをしていたから、懐かしい気分だ。
ちなみに、お寝坊のスピネルはベリルに蹴飛ばされベッドから落ちて、ようやく起きた。
「何すんだ!狐!」
「起こしてあげたんですよ。感謝してはどうですか?」
「なんだと!!」
あらら…、口ケンカが始まっちゃった。
「スピネル、落ち着いて。ベリルも今度は優しくね。」
「「…わかりました。」」
間に入ると、素直にケンカを止める2人。なんだか微笑ましい。
では改めて、
「スピネルもおはよう。」
「おはようございます!!」
尻尾をブンブン振り回す。さっきとえらい違いだ。
そんなこんなで、1日の始まりだ。身支度を済ませ、畑を見に行ってみよう!
わー、ホントに出来てる!
木には林檎と桃が。畑にも野菜が4種に稲と麦が。
稲と麦は主食になるから、種を植えた後に魔力を流して念じておいた。
まぁ、増える物の中にあったから、次からは作らなくてもよくなったけどね。
とりあえず、皆で収穫開始!そんなに広くないから、6人だとあっという間だ。
皆が集めてくれている間に、私は稲と麦を米と小麦粉に。鑑定で見たらやり方が書いていたのでやってみる。
野菜は、土がついているものは、土を落とし、他の野菜たちと一緒にアイテムボックスへ入れて畑仕事は終わり。本当ならもっと手間がかかるのに…、シア様様だ。
そして、家に入り朝ご飯の準備をしていた時だった。
豹の姿で、ソファーにくつろいでいたナイトが急に立ち上がり、警戒を始めた。
「ナイト?」
「何か来る…。」
皆も感じたようだ。私も気配察知で確認。大きな魔力の塊が近づいて来る。私たちは、様子を見に外に出た。
空を見上げると、黒と赤、2体の大きなドラゴンが近づいて来るのか見えた。ドラゴンは、すぐ近くに来ると空中で止まり、こちらを見ながらゆっくりと降りて来た。よく見ると、黒いドラゴンの背に青いドラゴンが乗っている。子どもかな?大きさは2mくらいだ。
「ふむ…、そなたがシズクか?」
赤いドラゴンがしゃべった…。…いや、ドラゴンは話せる設定が多いし不思議はない、か?とりあえず、なんで私の名前を知ってるか分からないけど、聞かれたことに答えよう。
「はい、私がシズク、ですが…。」
じっと私を見るドラゴンたち。居たたまれない…。
しばらくして、赤いドラゴンは何か納得するように1つ頷く。
「ふむ、微かじゃが、シア様の気配がするようじゃ。」
シアの気配?シアの関係者ってこと?…そういえば、《そのうち何人かは様子見に来るでしょう。》って言ってたな…。でも、ドラゴンって…。言っといてよ!
「えっと、とりあえず中に入りますか?」
敵意はないようだし、このまま外にいるのもなんだしね。来たってことは何かしら話があるんだろうし…。
あー、でも…。この大きさじゃ中に入れないな…。困った…。
いっそ外にイスやらを用意しようか?など、どうしようか悩んでいると、赤いドラゴンが、「そうじゃな。」と頷く。え?どうするの?と思い見ていると、2匹のドラゴンの姿が人型に変わった。
赤いドラゴンは初老の男性に、黒いドラゴンは初老の女性に。
「この子はまだ、人化ができないの。大丈夫かしら?」
女性になった黒いドラゴンが、青いドラゴンを撫でながら、そう聞いて来た。
「はい、大丈夫です。どうぞ。」
2人と1匹を中に招きソファーへ。青いドラゴンは珍しいのか、キョロキョロと見回している。
「飯時に邪魔したようじゃな…すまぬ。」
匂いに気づいた赤いドラゴンが、申し訳なさそうにしている。
「いえ、気にしないでください。…あの、よかったら一緒に食べますか?」
なぜだろう…。言わなくてもいいのに言ってしまうのは…。性って奴かな…?
「ご飯!?お肉ー!!!」
そして、青いドラゴンが食いついた。わーい、わーいと、嬉しそうにはしゃいでいる。
お肉ー!って…、もしかして、生肉かい…?
ちなみに、あちらの現実世界の肉類はあまり量がない。…でも、ゲームの戦利品ならある。兎、熊、鳥、猪、蛇とか、もちろん魔物だ…。ゲームでは料理に普通に使ってたからね…。
……よし、焼くか!すでにブロックになってるのは救いだな。
献立は、ご飯、卵焼き、味噌汁、照り焼き、キャベツの千切り。
どうやら、ドラゴンたちも気にいってくれたようで、なによりだ。
「ふむ、人が作った物は久しぶりじゃが、美味かったぞ。」
「えぇ、本当に。」
「初めて食べたー!焼いたお肉、美味しいね!!」
やっぱり、いつもは生肉ですか…。
美味しいと言われ嬉しくなる。食後にお茶を出しながら、何をしに来たのかを聞く。
「お口にあったようでよかったです。…えっと、それで、皆さんは何をしにここへ?」
「ん?ただ見に来ただけじゃ。」
……………え?…終わり!?もっと大事な話があったり、それこそシアからの言付けとかないの!?
戸惑っている私に、黒いドラゴンが成り行きを話してくれた。
「わたくしから説明致しましょう。昨夜、シア様から[報告とお願い]を、聞きました。報告は、あなたがこちらにいること。そして、あなたに何かあった時、力になって上げて欲しい、というものでした。」
「我らはそなたを見極めに来たのじゃ。力を貸すに値する存在か、否か。」
目が合い、ゴクリと唾を飲む。
一瞬で空気が変わり緊張の中、手は汗ばんでいる。なんだか心を見透かされているような気分だ。
「だが、杞憂じゃったようじゃ。」
ふっと、空気が軽くなり、呼吸も楽になった。
「人は、わたくしどもを見ると恐怖し、敵意を向けるものもいます。ですか、戸惑いはあれ、あなたにはそういった感情はありませんでした。」
えっと…、つまりどういうこと?更に戸惑っていると、赤いドラゴンがニカッと笑う。
「つまりな、我らはそなたを気に入った、ということじゃ。」
「えっと、ありがとうございます?」
こういう時、なんて言うのが正解なのか…。とりあえず、ドラゴンたちと一戦交えるみたいなことはないってことだよね?よかったー!