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呼び出し

シズクたちが眠りにつき、夜も深けた頃。ある城では、男が仕事を終え、やっと眠りについたところだった。彼の眠りがだんだんと深くなる。いつもなら夢を見ることもほとんどない。だけど、今日はいつもと違い。暗い空間の中に銀髪の女性。そして、その女性を囲むように7色の光が浮いていた。


「待っていましたよ。あなたで最後です。」


「一体、何の用だ。」


女性…、女神に呼ばれたと気づいた彼は、不機嫌を隠すことなく眉間にシワを寄せている。


「女神である貴女様が、我らと話すのは『青竜が産まれる』という知らせ以来ですな。」


赤い光がそう言うと、女神はそれに頷き、青い光に目を向け微笑む。


「そうですね。青竜とは初めまして、ですね。」


小さな子に話しかけるような優しい声。青い光は嬉しそうに、返事をした。


「はい、初めまして。シア様。」


そんな、ほのぼのとした空気に痺れを切らし、男が口を挟む。


「そんなことのために呼んだのか。」


それに、女神は首を横に振り、本題を話し始める。


「いいえ、皆さんに報告とお願いがありまして…。」


「報告?」


「はい、実は事情がありまして、別の世界の方をリーリシアに転生させることになりました。ヒューマンの中では、彼女に敵う者はそうそういないでしょう。そして、彼女に仕える者たちは彼女より強い力を持っています。」


ふむ、と赤い光が考える素振りをする。


「つまり、[勇者]と言われる存在ということですかな?」


「いいえ、それは違います。勇者はこちらの世界の者に召喚された方のことですから…。さっきも言ったように事情があり、彼女は私自ら器を創り転生させました。」


「ほう。シア様自ら…。それはよほどの事情がおありなのでしょうな…。」


赤い光の言葉に、女神は内心ギクリと焦るが平静を装い、「えぇ…。」と憂いを帯びた表情を見せる。これ以上触れてはいけない、と周りが思い、今度は白い光が話を進める。


「それで、その者をシア様は気にかけているのですね?…ですが、本人も力があり、仕える者たちもいるのなら、心配はないのではないですか?」


「えぇ。今、彼女たちはリシアの森に住んでいますから、危険もないでしょう。」


「リシアの森にヒューマンを住まわせているのですか!?」


白い光は、驚きのあまり声が大きくなる。だが、驚いているのは、(みな)同じ。


「はい、彼女は自分や仲間が争いに巻き込まれることを望んでいません。ですから、最も安全であろう場所に。」


「ですが、あの場所は聖域です!ヒューマンを住まわせるなど…。」


いくら女神が決めたことでも、自分たちにとって大事な場所だ。すぐに納得はできない。それに加え、女神はさらに驚きの発言をする。


「ですから、彼女には私の加護を与えました。」


「加護を…、ですか?」


女神の加護。それを与えられたものは、今まで一人もいない。


「はい、加護を与えたことで彼女は私の眷属…。分身のようなものですから、聖域に居たとしても問題はないでしょう。」


「ですが…。」


そうは言われても、前例もないことを簡単に納得するのは難しい。それでも、自分たちが何を言おうと、女神の意思を変えられることはおそらく出来ない。

それに、それだけ女神はその者を気に入っているというとだ。なら、悪い者ではないのだろう。


そう結論付け、赤い光は仕方ないと、折れることにした。


「ふむ、すでに住んでいるなら我らが何を言ったところで、覆ることはないじゃろう。今のが[報告]ですな。お願いとは?」


「彼女に何かあった時、私のかわりに力になってあげて欲しいのです。」


加護を与えただけでなく、我らに力になれと言う。

この世界を維持するのが女神の役割だ。いわば、外側を女神が、内側を我らが守っている。大規模な災害など、我らでもどうにも出来ないことは女神の力が必要だが、その力は強い。強いからこそ、内側のことに干渉するのは、よほどのことがない限り難しい。


「シア様は直接この世界に干渉出来ない身。ですが、ヒューマン1人になぜそこまで?」


女神は悲しそうに、視線を下に向ける。罪悪感を持っているのが分かる。


「それは…、彼女がこちらに来ることになった原因が私だからです。ですが、少しでも彼女には心安らかに過ごして欲しいのです…。そのために、魔族側と交流を持って欲しいと思っています。ヒューマンに利用されることがないように…。」


言い終わると、女神の視線は、男に向けられた。


確かに、ヒューマンに存在が知られれば、我らが思ったように勇者や救世主などと言って利用されるかもしれない。


赤い光や他の光も男に意識を向ける。


「どんな奴かも分からないのにか?」


彼は面倒だと態度で示す。


「それでしたら、彼女に会いに行ってください。魔王である貴方が彼女を見定め、認めれば、他の魔族も彼女を受け入れるきっかけになるでしょう。」


「認めるに値しない場合は?」


「その場合は仕方ありません…。ですが、その心配はしておりません。」


女神の譲らない態度に、ため息を吐く。乗り気はしないが、場所が場所だけに見に行く必要がある。


「ふむ、我も一度見に行くか。」


赤い光は乗り気なようで、楽しみだと笑う。


「えぇ、ぜひ。ただ、大勢で押し掛けてはいけませんよ。迷惑になりますから。では、彼女…、シズクをよろしくお願いしますね。」


話は終わり、女神の姿が消え、他の光もなくなった。暗闇に残されたのは彼1人。


「女神の加護を与えられた者、か…。」

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