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その2 


 最初にそれを見つけたのはクマのコークだった。

 ある日コークは震えながらアステルの住む小さな家に飛び込んできた。その家にはコークもよく遊びに来るのだったが、その時はコマドリのウッコとリスのイリイが来ていた。

 アステルは仕事部屋にこもって仕事をしていて、ウッコとイリイが居間にいて勝手に遊んでいた。ウッコはアステルが仕事中だということにもお構いなしに、お得意の歌を歌い(でもウッコはアステルのために、と歌っていた)、イリイはアステルにもらった『もう使わないもの』で、何かいたずらができないか、いろいろ工夫をしていた。

「大変だ!」

 顔色を変え飛び込んできたコークに、ウッコとイリイは驚き、「どうしたの?」と言いながらコークのそばに飛んで来、駆け寄ってきた。アステルもコークの声に驚き、仕事部屋から飛び出してきた。

 アステルはまずコークをソファに座らせ、台所にいって水を汲んで来て手渡した。

 コークはその水を一気に飲むと、少しむせてイリイに背中にのられ、さすられた。ウッコは心配そうにコークの周りを飛び回っていた。

 むせていた咳が収まると、ようやくひとごこちついたコークは、

「森に人間が入ってきた」と言った。

 アステルとウッコとイリイは顔を見合わせた。

「人間が………」ウッコとイリイは不安そうに声をあげた。

 この森にすむ動物たちが人間を見たのは、アステルの会社が産業廃棄物を投棄に来たときが初めてで、コーク、ウッコ、イリイはその時の不安な気持ちを思い出していた。

 そしてその次に見た人間はアステルだったが、不思議と森の誰もが、アステルにはあまり警戒心を抱くことなく、すぐに打ち解けてしまった。

「人間たちは何をしていた?」

 アステルはコークに尋ねた。

 コークは必死に思いだし、

「大きな四角いがさがさいうものを丸めたり広げたり長ーい紐を引っ張ったり。三角の物を立ててのぞいたり」

 測量をしていたのだ、とアステルは悟った。コークはさらに続けた。

「それからアステルが持ってるのと同じような四角い小さなものをいじっていた。人間たちはおんぼろ橋の向こう側にいたんだ。僕、怖くて逃げようとして、音を立ててしまって見つかったんだ。その人たちは『熊だっ!』って叫んで、僕を追いかけてきた。一生懸命逃げたけど、追いつかれそうになって、振り返ったら、先頭の一人が転んで穴みたいなのに落ちて、そのあとの人たちもそのころんだ人につまずいてみんな転んでた」

 イリイは「あっ!」と声をあげました。以前作って、誰も引っかからなかった落とし穴。イリイもすっかり忘れていたけれど、コークを追った人間の誰かがその穴に落ちたのだ、と思いました。

 コークは一息ついてまた話し始めました。

「僕がオンボロ橋を渡りきった時、人間の一人が橋の向こう側にたどり着いたけど、あんまり橋がおんぼろだったから、怖かったんじゃないかな。こっちにはこなかった」

 人間たちがいじっていたのはおそらくパソコンかタブレットだったのだろう。アステルはしばらく考え込んで、

「橋の向こう側にはクッヘとアーライが住んでいたよな?」とウッコにきいた。

 ウッコは、「ええ、そうよ。オーキは橋のこちら側に住んでいるけど」と答えた。

 ヘビのクッヘとアライグマのアーライ以外の仲間は今ここにいないキツネのオーキも含めみんなどんぐり池のあるオンボロ橋のこちら側に住んでいた。

 アステルは「人間たちがいなくなったら、すぐにクッヘとアーライを探しに行こう」と言い、みんなで日が落ちるのを待った。

 日が暮れオンボロ橋のたもとに、鳥目で夜が苦手なウッコを除く、アステルとイリイとオーキとコークが二人を探しに来ると茂みに隠れていたらしいクッヘとアーライがみんなの姿を見つけ、ゆらゆら揺れるオンボロ橋を駆け抜けるような速さで渡って来た。

「こわかったろう!」コークが二人に言うと、いつもなら「コークはこわがりだなあ」とからかうクッヘとアーライが、コークに飛びつき、三人は抱き合った。

「もう大丈夫だからね」コークは大きな体で二人を抱きしめた。

 二人の震えが収まってから、アステルが

「ごめん、みんな。僕と同じ人間が君らに迷惑をかけて」

 と言った。みんなは

「アステルのせいじゃないよ!」と声をそろえて言った。

 アーライは「でも、人間の一人は銃を持っていた。一度、コークに狙いをつけたんだよ」と言ったので、今度はコークが驚き、震えだした。

「とにかくクッヘもアーライもしばらくオンボロ橋のこちら側で暮らそう。そのほうがいいよ」とオーキが言い、その夜はそれでおしまいにして、皆それぞれのねぐらへ帰って行った。


 翌朝、いつものように、夜明けとともにオーキがアステルのところに来た。

 アステルはオーキの目が赤いのを見逃さなかった。

「夕べ、ねむれなかったのか?」

 アステルはオーキにたずねたが逆にオーキから「アステルだって」と言われてしまった。

 森のみんなは夕べほとんど眠れなかったに違いない。クッヘとコークはとりあえずアステルの家の納屋に泊まったが、おそらく眠ることはできなかっただろう。

 アステルはドングリ池に来ると水も飲まず何かを考え込んでいた。

「あっ!」アステルと一緒に池に来ていたオーキが声をあげた。

「そうだよ、アステル。このドングリ池は秘密があって、ドングリを投げながらお願い事をすると一生に一つだけその人の願いをかなえてくれるんだ。昨日見た人間さんたちが森に来ないでもらえるようにお願いすればいいんだよ。えーっと、ドングリ、ドングリ…………」オーキはドングリを探しましたが、まだ今年は落ちてきていなかった。

 しょんぼりするオーキにアステルは安心させようと少し笑って、「何大丈夫さ。まだ、何か起こると決まったわけじゃない」と言った。

 けれど、日が昇ってすっかり明るくなった頃、またオンボロ橋の向こうに人間たちはやってきた。


 

まだつづきます。

よろしくお願いします。

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