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その一

こんにちは。(*^^*) このページに来てくださってありがとうございます。

冬の童話祭2019の参加作品になります。


『企画内イベント』の設定の最初の最初の『昔々』は無しの物語になります。


本編に先だって人物紹介を載せていますが、本編を読んでいただけば分かるようになっていますので、飛ばしていただいて結構です。



よろしくお願いします。m(_ _)m


【登場人物】



 アステル………逆さ虹の森にすむただ一人の人間。ブラック企業に勤め、バーンアウトした過去を持つ。



 ウッコ……………歌上手のコマドリ。少し自意識過剰気味。みんながいつでも自分の歌を聴きたいと思っている。



 オーキ……………おひとよしのキツネ。いつも周りのみんなの心配をしている。今一番心配なのはアステルの健康。



 イリイ……………いたずら好きのリス。いたずらが過ぎて、森で見つけた大きな穴を落とし穴に仕立てたことも。でも、誰も引っかからなくて、みんなにうそつきと思われちゃった。



 クッヘ……………食いしん坊のヘビ。でもただの食いしん坊ではなくて、みんなの食欲や体調なども気にしている。勝手に自分はみんなの嫌われ者だと思い込んでいる。



 コーク……………怖がりのクマ。でも人間から見るととても大きくて危険なので、銃で狙われたりもする。



 アーライ………暴れん坊のアライグマ。でも本当は感受性の豊かなさびしがり屋


 




≪本編≫


………………風が変わる時が来た。

 逆さ虹の森にすむ、ただ一人の人間アステルは、何日も休むことなく続けてきた目の前の物の操作を止め、肩をもみ、腰を回しながら椅子から立ち上がった。外へ続くドアを開けると、夕日の見える家の裏手に回った。

 薄闇の雲の多い夕空を見上げながら、アステルはその確信を何度も反芻し、安堵のため息を漏らした。




「おはよう、アステル」

 それより数週間前の朝のこと。夜が明けるとほぼ同時に、いつものように『お人よしのキツネ』のオーキがアステルを起こしにやってきた。寝坊をすると、朝しか飲めないおいしいドングリ池の水が飲めなくなる。 

ドングリ池はなぜか朝日の昇る時の水が一番おいしくて、日が昇るにつれ、だんだんと土っぽい味に変わる。オーキは、アステルにおいしい水を飲ませてやりたかったのだ。

  アステルがオーキとともに池に来ると、池の上にはゆったりともやがかかり、その上に…………七色に輝く虹が、しかも普通の虹とは逆に下に弧を描いて、まるで疲れた体を優しく包み込むハンモックの様に、幻想的な美しさを見せていた。

「うわー」何度も見ている光景なのに、オーキは声をあげ、うっとりとその光景にしばらく見入り、それから水を飲んだ。

 アステルはそのオーキの様子に目を細めながらも、その池の向こう側に打ち捨てられているものに、苦々しい思いを禁じえなかった。

 その打ち捨てられているものとは…………旧式のソーラーパネルだった。

 この森はいつのころからか逆さ虹の森と呼ばれている。

 この森の、このどんぐり池の近くには、いつのころからか虹が普通の虹とは逆向きにかかる。そこで『逆さ虹の森』と呼ばれるようになった。


 逆さ虹の仕組みはこうだ。この池は澄んだ湧水がこんこんとわき、またその水温が、高地にある森の気温より高い、という特徴もあって、池の周りはいつも水蒸気に満たされている。そこに朝日を反射させたソーラーパネルの光が下からあたり、乱反射して輪上の虹を作る。虹の輪の上の方に別のソーラーパネルの光が当たって上半分の虹を打ち消し、下半分が残って逆さ虹ができる。昔のソーラーパネルは大きくて、まるで鏡の様に太陽の光を反射した。

 ………そして、そのソーラーパネルを打ち捨てた張本人がアステル自身だった。




 アステルは昔、大きな企業の技術部に勤めていた。どんどん新しい物を、どんどん便利なものを。そうやって製品を作り続けて、やがて捨て場に困り、この森に産業廃棄物を捨てていたのだ。

 アステルはいつしか自分のやっていることに空しさといら立ちを覚え、見知ったこの森に来るようになった。そして自分たちが壊したこの森の自然にも思い至り、苦しんだ。

 だがそんなアステルに、森の動物たちは優しかった。一人で何度も森に訪れ、いつも一人でドングリ池のほとりにたたずんで、ため息ばかりついているアステルを、森の動物たちは心配した。

「あの人間、大丈夫かね?」

 最初にアステルの事を口にしたのは意外にも『食いしん坊のヘビ』のクッヘだった。

「ここに一日中いるのに、食べ物を口にしているのを見たことがない」クッヘは自分をみんなの嫌われ者と思い込んでいたので、そっぽを向きながらいった。

「そうねえ」

 次に話し出したのは『歌上手のコマドリ』のウッコ。「そばに行って歌を歌ってあげようかしら」そして続けて言った。

「最初にあの人を見つけた時、あたしの歌に聞きほれていたもの」

 ウッコは優しいけれど、少し自意識過剰気味な女の子だった。

「ちょっといたずらしてみたら?だってみんな驚いた後、必ず笑うよ」と言い出したのは『いたずら好きのリス』のイリイ。

 イリイは時にはいたずらが度を越してしまい、大変なことになることもあった。

 そうそう、この間も、オンボロ橋の向こうの森で大きな穴を見つけたイリイは、それを誰かを落とす落とし穴にしたくて、そばに合った枯れ枝や草で穴を隠して「大変だ!火事だ!」と大声でみんなを呼んだのである。

 皆はすぐに集まってきたが、誰も落とし穴は踏まなかったのか、誰ひとり落ちずに、そして、どこにも火の気がなかったので、みんなは「イリイのウソつき!」と怒ってしまった。イリイは本当のことを言うわけにもいかず、それからみんなに誤解されたままだ。

「駄目だよ、イリイ。僕はいつも本当にびっくりして、飛びあがっちゃうもの。あの人だって、そうかもしれない」と言い出したのは『こわがりのクマ』のコーク。

 今も、コークは大きな体をちぢこめるようにして、みんなの後ろに隠れようとしている。

「体の具合がよくないのかもしれないよ。ドングリ池の水を毎朝飲めばきっとよくなるよ」と言っているのは『お人よしのキツネ』オーキ。オーキはいつもみんなの心配をしているのだった。

「あー、もう!めんどくせーなー!」

 突然、短気な『暴れん坊のアライグマ』アーライがイライラして飛び上がってアステルのところに行った。

 突然茂みから飛び出してきたアライグマに驚いたアステルは立ち上がり、自分を振り向きながら森の中に入るていくアーライの後を追いかけ、根っこ広場にやってきた。

 根っこ広場はたくさんの木の根っこが飛び出した広場で、ここでウソをつくと根っこにつかまるのだった。

 根っこ広場に着くアーライは、

「お前、疲れてんだろ」とアステルに問いかけた。

 アステルは「いや、別に」と答えた。

 すると、アステルの立っていた根っこがみるみる動きだし、あっという間にアステルの右足にからみついた。

「あっ!」

 アステルは歩くことができなくなった。

 アーライは続けて、

「お前、今やっていることがやりたくないんだろう」と言った。

 アステルは右足を根っこにとられたまま、

「そんなことはない。やりたいことができると思って入った会社なんだ」

 その言葉が終わるか終らないうちに、根っこが今度はアステルの右足だけでなく左足にも絡み付き、みるみる両膝までのぼってきた。

 アステルはこの場所にとらわれてしまった。

「お前は自分をごまかしている」アーライはアステルにそう言った。

「違う!僕は本当にやりたくてこの仕事を…………」

 根っこは、ぐんぐんとアステルの体を上に登って行き、アステルはすっかり見えなくなるほど根っこに覆われてしまった。

 根っこから解放されるには根っこの木のご機嫌が治るまで………数時間が必要だった。

 アステルは根っこに覆われて身動きが取れないにも関わらず、とても居心地が良いという不思議な体験をしていた。

根っこはアステルを暑さからも寒さからも守り、潤いを与え、まるで傷をいやすようにアステルを包み込んだ。


 およそ半日ほどたって根っこの呪縛が解けた時、アステルは、以前のアステルとは違った顔つきになっていた。つきものが取れたように優しい顔になった。


 アステルはその後、会社を辞めた。

 そして一人でもできる仕事を見つけてこの逆さ虹の森にすむようになった。いつしか、森の動物たちはアステルの友達となり、かけがえのない家族にもなった。

 森のみんなが魔法の様に喜んでいる逆さ虹の仕組みの秘密は、アステルの胸の中にしまっておいた。




 そして今また、森に不気味な影が忍び寄ってきていた。

 この森にふたたび人間の手が伸びてきたのだ。

 


つづきをどうぞよろしくお願いします。m(_ _)m

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