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モテない男のバレンタインデー

作者: ひかぴん

今年もバレンタインデーがやってくる!

どんな男性にも女性にも素敵な一日でありますように。


※連載中のお話(女子大生奮闘記)も完結にむかっています!よろしくお願いします。

その日が今年も近づいている。某人気アイドルグループのメンバーや人気女優のCMが視界や耳に入ると嫌でもその日の存在を意識してしまう。

心配していることは、チョコを何個もらえるかではない。もらえるかもらえないかでもない。もらえない寂しさを誰にも悟られないようにその日を過ごせるか、ということだった。

中学生の頃はよかった。無駄に校則が厳しかったからチョコを持ってきたり、もらったりしたことが先生に発覚すれば没収だった。生活指導の対象だった。先生からの信頼が厚いモテる男と女が先生から怒られる姿はとても新鮮だった。

しかし高校に入ると、昼食は給食ではなく自分で持ってくるくらいだからチョコを持ってくることくらい問題なかった。高校一年生。クラスメイトが下駄箱に手を入れて驚いた顔や女子に呼ばれて照れている顔を興味がないふりをして眺めていた。

高校二年生の今年のその日はどんな日になるのだろう。


カレンダーを何度見ても今年のその日は水曜日だった。だから休校になることばかりを願った。インフルエンザで学級閉鎖、大雪による交通障害。クラスメイトが元気で、天気予報も晴れマークばかりだと気づいたその日の一週間前からは自分が風邪を引けばいいと思いわざと薄着で外に出たり、こたつでふて寝をしたりした。それでもその日の前日まで至って健康だった。


その日は朝から冬晴れだった。熱も平熱だ。行くしかなかった。学校をサボれないほどにチキンな性格だった。


心なしか街中がそわそわしている気がした。朝から女子生徒が友チョコと言ってチョコを交換したり、運動部の女子マネージャーが男子部員にチョコを渡していた。去年と同様、平静を装って教室の隅の自分の席に座っていた。

「はよっ」

友達が挨拶してきた。僕も同じように返事をする。

「今日は、鈴木美菜子が本命チョコを渡すって向こうで女子が話してた」

友達の言葉に胸が跳ねた。スズキミナコ。片思いの相手だった。

「へぇ。誰にだろうね」

「さぁ。聞いたこともないよな〜」

そう言って彼は「はよ〜」と別の友達との会話に加わっていった。

鈴木美菜子。僕の幼馴染だ。小学生の頃はよく遊んでいたが中学生になって、なんとなく離れた。高校が一緒になったのは奇跡だった。美菜子は頭が良かったから県内一位の女子高に行くかと思ったが、家から近いこの学校を選んでいた。僕の母親によれば母子家庭の美菜子はお母さんが遅くまで働いていても弟が一人にならないように、ということらしい。

始業のチャイムが鳴った。長い長い、その日の学校が今年も始まった。


動きがあったのは、昼休みだった。もちろん僕が女子に呼ばれたわけではない。

「男!集まれー!!」

とクラスのお調子者の男子が叫ぶと、周りに男子が群がった。その人の群れの一番後ろから僕も話を聞く。

「鈴木美菜子。隣のクラスの山本圭人を放課後呼び出したって」

ガラガラと淡い期待が音を立てて崩れていった。今朝聞いた本命チョコの話。0.1パーセントでいいから自分であることを祈った。

「まじで?圭人?」「嘘だあんなのがいいのかよ」「うわー趣味悪っ……」次々とそれぞれが思い思いに言った。僕はそのまま自分の席に着いた。あとはもう、チョコをもらえなかった寂しさを誰にも悟られないように過ごすだけだ。


放課後。女子に背中を押され、美菜子は体育館の裏に向かっていった。僕は荷物をリュックに入れて帰路についた。早く家に帰りたかった。


帰り道もカップルが楽しそうに歩いていたり、男子中学生が似合わない紙袋を下げて歩いていた。街中に、その日の雰囲気が溢れていた。そんな街中の道の片隅で、一人のおばあちゃんが屈みこんでいた。

「どうしました?」

僕は何も考えずに話しかけていた。

「ちょっと荷物が多くて腰が痛くて……」

おばあちゃんの家が思ったより近かったから、送って行くことにした。

「ありがとう。助かるよ」

終始無言。すれ違うその日の幸せに浸る人を見て、僕は何をしているのか、と思った。でも一人で街を歩くよりマシだとも思えた。


おばあちゃんの家の鍵が開いていた。

「孫が来てくれたのかもしれない」

おばあちゃんは満面の笑みでただいま、と言った。

「おかえりなさい」

玄関に、20歳くらいの女の人が現れた。

「この方が荷物を持ってくれたんだよ」

おばあちゃんは僕の肩を叩きそう言った。

「ありがとう。お礼にこれを」

おばあちゃんの孫であろう女の人は赤いリボンのかかった小さなピンクの箱を差し出した。

「これ、いいんですか」

「いいの。お礼だから」

そう僕に言ったあとはおばあちゃんに手を差し出して家の中に入った。

「本当にありがとう」

玄関のドアが閉まった。僕の手の中には確かに小さな箱が収まっていた。


意外な人からもらったチョコは自然と僕の心を軽くする。街の中を帰るのも苦痛ではなくなかった。美菜子の恋がうまくいっていればいいな。素直にそう思えた。


今年のその日は、僕も少しだけ楽しめた。

いかがでしたか。この作品を投稿したときはバレンタインデー前でした。読んでくださったあなたにとって素敵な一日になりますように。

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