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日常だった日

掲載日:2017/12/18

「やめろ、やめるんだ……今は、今は駄目だ!!」


 オレは、静かな戦いの場に身を落としていた。

 戦場は血しぶきが飛ぶでもなく、剣戟が鳴り響く荒廃した場所でもない。

 しかし、そこは確実に戦場だった。

 オレは、()()()と激しい戦いを繰り広げている。


「時間がないんだ! どうして今なんだ! あっ、くそ、くそーーーー!!」


 俺の抵抗も虚しく、そいつはいともたやすく俺の間合いに入り込み身体を密着させる。

 もうダメだ、身動き一つ出来ない。


「なんでだよ……夜の間ずっと布団の上にいたのに……何で起きる時間になると布団の中に入ってくるんだよー!!」


 アラームが鳴る。

 そんな音はお構いなしに俺の愛猫は俺の腕を枕代わりにゴロゴロと喉を鳴らし丸くなっている。

 

 起きなければいけない。

 今日だって普通に仕事だ。

 しかしだ!

 気持ちよさそうに眠るトッチを払い除けて、このせなかい空間を抜け出して、冷え切った部屋の中出社の準備をするなんてこと、オレに出来るだろうか? いや、出来ない。


「トッチ~~~~~」


 優しく身体を撫で、喉の下を撫でてやるとゴロゴロという音は一層大きくなる。


「大丈夫、最初のアラームは保険。次のアラームで起きれば問題は何もない。

 次は心を鬼にしてこの誘惑を跳ね除けてオレは仕事に行ける」


 温かな布団、愛するネコの振動と体温が再びオレを眠りに誘う。


 なぜだろう。

 ほぼ毎日これを繰り返して少しは学習すればいいのに。


 二度寝。


 神が人類に与えた究極の快感の一つ。

 普通の睡眠よりも遥かに多幸感に包まれるこの時間。

 しかし、重大な罠が潜んでいる。


 思ったよりも遥かに深く眠ってしまうことがある。


 皆さんも経験はないだろうか?

 最初のアラームは普通に目覚めるのに、二度寝している間になっていたはずのアラームは華麗にスルーしていることを?


 そう、この現象、オレは何度となく体験している。

 そして、そのたびに多大なる代償を払うことになる。


 ピポパピポパポン、ピポパピポパポン


 この音はスマートフォンの着信音だ。

 同時に最終起床時間、つまり、最後通知の音でもある。


「やっちまったぁ!!」


 ガバッと布団を蹴り飛ばし身を起こす。

 ごめんよトッチびっくりしただろう?

 と、見ると既にその姿はなく、自室の餌をカリカリと食べている。

 自分はあっさりと毎朝の行動を規則正しく行って、オレを置いてけぼりにしている。


「なーんて考えている暇はない!」


 オレは急いで寝間着を剥ぎ取り、半裸で顔を洗い歯を磨く、吊るしてあるシャツを掴みスーツを準備する。

 最終アラームで起こされた場合、家に出るまでに用意された時間は10分。

 さらに、駅までの徒歩15分の道のりを6分30秒で走らなければいけない。

 あの、坂道を、だ!


 冷蔵庫を開けて10秒チャージを握りしめて靴を履く。


「行ってくる!」


 返事はないが、いつおのお気に入りのクッションの上でトッチがあくびをしている。


 ああ、オレは、あいつの生活を守るために仕事しているんだな。

 幸せだ。


 こうして扉をたたき開けて駅へと駆けていく。


 クタクタになって、家に帰った時のトッチにスリッっとズボンに擦り寄ってもらうために。

 今日も仕事に生きるのである。


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