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CERVATOS  作者: 春戸 稲郎
七月
65/66

染谷に必要なもの


 そらながマイクでアナウンスする。

「これより一年一組にて披露宴を執り行います。調理班が腕によりをかけた料理をお楽しみください。また今夜は特別に、一年二組で大小(タイサイ)を催しております。このゲームでの収益は、すべて劉様ご夫妻へのお祝いとさせていただきます。どうか皆様、奮ってご参加くださいませ」

 式が終わり、客たちは劉夫妻に祝いの言葉をかけながら、三々五々に散っていく。

 一風変わった結婚式を楽しんだ客たちの満足げな顔を眺めながら、染谷はぽつりと、隣にいる稲に零した。

「……僕は、この〈学級〉に、必要ないのかもしれません」

 染谷の独り言のような呟きに、稲がくるりと首を振り向けた。

「最近は特にそう思います。……僕なんかいなくても、ここの子供たちは逞しく成長していきます。お互いに刺激しあい、協力しあい、強くなっていきます」

 誰でもいい、理解してくれなくともいいから、自分の弱音を聞いてほしかった。

「僕はきっと、ここに必要ありません。それはある意味喜ばしいけれど、寂しくもあるのです」

 そこまで言ってから、すみません(ロ・シエント)、と染谷は笑顔で謝った。

「わからないことを言ってすみません。僕はもう、」

「あなたには、必要でしょう?」

 稲が喋った。流暢な日本語で。

「あなたの成長には……子供たちが必要でしょう?」

 驚いて目を丸くしている染谷に、稲はニヒルな笑みを浮かべた。

「い……イネスさん、日本語しゃべれたんですかっ?」

 問いに稲は答えず、染谷を置いてマリベルの許に歩き出した。

 逡巡の末、思い至る。

「やられた……!」

 マリベルに一杯食わされていた。染谷が稲とのコミュニケーションで四苦八苦するのを楽しむために、マリベルは稲に日本語を喋らせなかったのだ。

 染谷は悔しさに顔を歪める―――が、表情はやがて笑みに変わっていた。

 確かに、稲の言うとおりだった。

 何様のつもりだろう。教職に就いて一年目の自分など、挫折する資格さえ持っていない。

 本当にそのとおりだった。確かに自分の成長には、子供たちが必要だった。

 ならばどうするか。

 答えは決まっている。

「染谷先生! 今日くらいはエマとリサの料理を食べてあげてよ!」

 そらなと一緒にいたマリベルが、染谷に向けて大きく手を振った。その様子は十二歳の少女らしくあどけないものだった。

 そうするよ、と手を挙げて答え、染谷はマリベルに駆け寄った。


 たとえ必要とされなくとも、見守ろう。

 彼らのそばで学ばせてもらおう。

 自分はまだ〈一年生〉だ。

 成長しよう。

 いつか頼ってもらえるようになるまで。




 ―――夏休みが始まろうとしていた。

 これまで以上に濃厚な賭博の夏が―――


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