〈セルバトス〉流の誓いの儀式
司会進行を務めるそらなが、厳かな口調でマイクに語りかける。
「ただいまより、劉翔様、中村紀子様の結婚式を始めさせていただきます」
即席の結婚式場となった体育館には、物珍しさから、その晩〈セルバトス〉に来ていた客のすべてが集まった。結局用意した椅子だけでは足りず、あぶれた客はそこかしこにばらばらに散って式を見守っていた。染谷も、護衛の稲の隣で式を見つめていた。
「新郎新婦のご入場です。皆様、拍手でお迎えください」
そらなの合図により、体育館の入り口が開かれ、夫婦となるふたりが入ってきた。至ってカジュアルな服装のふたりは、腕を組んで颯爽と、赤いカーペットの上を、拍手と祝福を受けながら歩いてきた。
カーペットの先にある演壇の前で新郎新婦の劉と中村女史が並び立つと、マリベル・エスコバルがふたりの前に立った。
演壇に立つマリベルは、何故か右手に大きなブランデーグラスを持っていた。
「劉様。中村様。ご結婚おめでとうございます。……これより、〈セルバトス〉流の誓いの儀式を始めさせていただきます」
何を始めるつもりだと、来場客はざわめきはじめた。劉と中村は、マリベルが何を仕掛けてくるのかを楽しみにしているような表情だった。
マリベルは持っていたブランデーグラスを演壇に置くと、自分の両手をふたりに差し出した。
その手には、〈セルバトス〉では使用するゲームのない、赤いカジノダイスが乗っていた。
「劉様。……あなたは、残りの人生の時間を、妻となるこの女性に賭けることを誓いますか?」
「……はい。誓います」
「では中村様。あなたは残りの人生の時間を、夫となるこの男性に賭けることを誓いますか?」
中村女史は静かに微笑み頷いた。
「それでは、この運命のサイコロを手に取り、優しくグラスに投げ入れてください」
マリベルの指示に、ふたりは目を見合わせて、それぞれ手に取り、同時にブランデーグラスの中に投げ入れた。
かんきんころりと、ブランデーグラスの中をふたつのサイコロが、お互いを弾くように、円を描いて踊るように回り始めた。
その瞬間、マリベルがブランデーグラスを逆さまにして、演壇の上に伏せ置いた。
「おふたりの新たな門出を占います。さぁ、丁か半か、賭けてくださいませ」
マリベルのまさかの行為に、会場が一気に沸いた。
賭けろも何も―――サイコロを閉じ込めたツボは、透明なブランデーグラスである。
劉はおかしそうに笑った。
「姫君、本気かい?」
「賽は振られました。……〈セルバトス〉からのささやかなお祝いです」
客席のどこかから「一億賭けろ!」と声が上がり、会場の笑いを誘った。
それを受けて劉は、しかし、苦笑して首を振るのだった。
「千載一遇のチャンスなのだが……惜しいことに、今日は現金の持ち合わせがない」
そう言って懐から財布を取り出すと、一万円札を一枚だけ、逆さまになったブランデーグラスの底の上に置いた。
劉は妻の肩を抱き、ふたりで声を揃える。
「半!」
「半ですね? 出目は……四一の半!」
おめでとうございます、とマリベルが祝福すると、ふたりはキスをした。
体育館が温かな歓声と拍手に包まれた。




