対決
―――あなた方に今晩のような振る舞いを毎週続けられては、わたしたちも商売になりません。出入り禁止にしても別の誰かがやってくることでしょう。
当カジノの風紀を守るためには、もはや店を畳む以外の方策はありません……が、それでは誰も得をしません。わたくしどもも、あなた方も。毎週このカジノを利用してくださるお客様を悲しませることにもなります。
それはあまりにも無益です。ですが、ヤクザの絡んだ賭場は、わたくしどもの目指す理想のカジノとはかけ離れております。あなた方との共存はありえません。
なので……このカジノの利権を丸ごと、いっそあなた方にすべてお渡ししたいと思います。そうすれば〈わたくしどもの方針〉は消えてなくなります。
もちろん無条件で譲るわけではありません。
わたくしどもと勝負をしましょう。
通常は毎週土曜が営業日ですが、来週は特別に金曜も店を開きます。
その晩催されるどの種目でも構いません。人数も問いません。あなた方が来週の金曜日に、ここで2000万円以上勝てた場合、〈セルバトス〉のすべてを差し上げることを約束します。
ただし、もしも浮きが2000万円に届かなかった場合は、今後一切〈セルバトス〉に関わらないと、お約束していただきます。
この条件を飲んでくださらなかった場合は、残念ながら、今日が〈セルバトス〉最後の営業日となります。
……何故、と問われますか?
お答えします。
当カジノクラブ〈セルバトス〉の支配人、マリベル・エスコバルは、ヤクザと手を取り合うよりも、ヤクザにカジノを売り渡すよりも、いっそヤクザとの勝負に負けて店を奪われたほうがマシだと考える人間だからです。
さて……どうされますか?
―――このようにそらなはヤクザに話を持ちかけたと、染谷はあとになって聞いた。
そして六日後の金曜、臨時営業日として開かれた〈セルバトス〉に、事前の申し合わせのとおり、四人のヤクザが軍資金を携えて、意気揚々とやってきた。
ほぼ確実に勝てる勝負だと見込んでやってきた彼らを出迎えたのは、マリベルだった。
通常の営業日よりも多い客で賑わう正面玄関。そこに現れたマリベルを見て―――ヤクザたちは、度肝を抜かれた。
周囲の客からも視線を集めるマリベルは、いつものスーツ姿ではなかった。
「お初にお目にかかります。当カジノの仕切りを務めさせていただいております、マリベル・エスコバルと申します。遠路はるばるおいでいただき、心から感謝いたします」
ヤクザに対して恭しく礼をするマリベル。その頭髪は結い上げられ、うなじがきれいに剃られていた。彼女が頭を上げると、髪をまとめる簪に付いた鈴が、りんと鳴った。
マリベルは色とりどりの鞠の散らばる黒い着物を着ていた。いや、普通に着ているならまだしも、細い両腕をさらけ出し、胸元を大きくはだけさせて身に纏っていた。露になっている褐色の薄い胸板には白いサラシがぐるぐるに巻かれていた。
着物姿の異国の少女に気圧されているヤクザ相手に、マリベルは朗々と唄うように告げる。
「本日、〈セルバトス〉の利権を賭けての和賛組様との勝負を、わたくしどもは尋常にお受けいたします。……つきましては僭越ながら、特別開帳の種目をご紹介いたしします」
マリベルははだけた着物の懐から〈ある物〉を取り出すと、手に乗せてヤクザに見せた。
それはふたつのサイコロだった。
「今宵は日ごろよりご愛顧いただいておりますお客様へのささやかな礼として……寺銭なしの〈丁半〉を執り行います。賭けの上限は十万円。和賛組の皆様も奮ってご参加くださいませ」
―――マリベルからそう告げられたときのヤクザたちの驚愕の表情は、染谷にとって同情を誘うものだった。
無理もない。
上限十万円の丁半博打で2000万円勝てというのは、ほぼ不可能なのだから。




