いつか来る来てほしくない客
―――七月の第一土曜日。
湿り気を帯びた風が山の木々を揺らす。予報では夜半から雨。月も星も見えない曇り空の夜は、私立のじか学園の闇を更に黒くする。
開店前の設営時間中、そらなからの報告によって、あるミスが発覚した。
「カードが足りないって……十分なストックがあったはずでしょう?」
「はい。そのつもりでした。段ボール箱に入っていたのもトランプはトランプでした。……ただ……種類が、ばらばらのごちゃ混ぜでした」
そらなが言い辛そうに報告すると、ああ、とマリベルは頭を抱えた。
「規格が大幅に違ったりプラスチック製だったり、キャラクターグッズだったりで……」
「くそっ! あのおもちゃ屋のくそじじいめ! まんまと掴まされたわ!」
二階のブラックジャックルームに見回りに来ていたマリベルが悪態をつくのを、設営を進めていた周囲の児童たちが心配そうに見つめていた。
「店を畳むって言うからまとめて大量に購入したっていうのに、まさか売れ残りで嵩増しされてたなんてね。こっちが法に訴えられないところを付けこまれたわ」
「申し訳ありません。箱を開けて表面だけは〈Bee〉だったので、確認を怠っていました」
「蜂(Bee)の一刺しにしてはあまりにも痛いじゃない。……それで? 本当のストックは?」
「普段どおりに使用すれば、来週分が残りません」
マリベルは顎に手を当てて思案する。
「今は新しい問屋と話を詰めている途中だから、契約を急がせるにしても、カードの補充は最低でも半月かかるわ」
「ブラックジャックでぎりぎりまでデックを使用されてはいかがでしょう? 幸いカウンティングを行おうとするお客様もおられませんし」
「……ほかに手段はないわね。いざとなったらテーブルを減らすから。今晩のポーカールームでは、その余り物のカードを使うように指示して」
「いいんですか? キティちゃんとかプレイボーイのグラビアとかのトランプですよ?」
「どっちの〈仔猫ちゃん〉も、ただ捨てるのはもったいないでしょう?」
マリベルは苦い表情で首を振った。
「悔やんでもしょうがない。あの腐れじじいへの餞別としておきましょう。あれでも一年以上秘密を守って卸してもらったんだし」
「それでは、今夜のブラックジャック班とポーカー班にはそのように伝えます」
「くれぐれもよろしくね。カードのないカジノなんて物笑いだわ」
教室の前の廊下でそらなと別れたところ、彼女とすれ違うようにして、どたばたと怜雄が走ってきた。
「怜雄! あんた廊下を走るなって何度言わせれば……!」
「それどころじゃねぇ! 姫! やばいことになった!」
そらなの注意に構う余裕さえないほど慌てている怜雄に、マリベルはため息をつく。
「今度はなに? カードが足りないって話ならさっき聞いたわよ?」
「そんなんじゃねぇ。今すぐ隠れてくれ!」
怜雄が息を切らせて真剣な顔と声で緊急事態を伝えると、マリベルも表情を変えた。
「どういうこと? 何があったの?」
「……警察だ。刑事が来てる!」
立ち聞きしていたそらなも、騒ぎを聞き付けて教室から顔を出した児童たちも、怜雄の一報に驚愕の表情を見せた。
マリベルが何事かを言おうとしたとき、二階の廊下まで響く大声が轟いた。
なんだお前は、という、客ではない男の声だった。




