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CERVATOS  作者: 春戸 稲郎
六月
40/66

我慢


「馬鹿だなぁおまえー! あんなダブルダウンがうまくいくわけねーだろぉ?」

「うっせーなぁ! おめーだってちまちま賭けてんじゃねーよ。金玉ついてんのか?」

「おうよ。女泣かせの釣竿が昨日もビンビンだぁ」

 ぎゃはは、と、三人の若い男たちの下卑(げび)た笑いが、ブラックジャックルームに響いた。三人は見るからに酔っ払っており、周囲にいた客は眉を(ひそ)めて遠巻きに見つめていた。

 聞くに堪えない下品な会話に顔をしかめながら、すたすたとそらなは三人の男に近付いた。

梶木(かじき)様、よろしいですか?」

「ん? どうしたのお嬢ちゃん。お兄ちゃんたちと遊びたいの?」

 酔っ払いのひとりがそう言うと、なにがおかしいのか、残りのふたりが大笑いする。

 そらなは表情から笑みを消して、氷のように冷たく応対する。

「お楽しみのようですが、ほかのお客様もおられます。少しお静かにプレーなさってください」

「『お静かに』だって。かわいー!」

 三人の若い男はまた笑う。垂れたそらなの両の拳の中で、爪が手のひらに食い込んだ。

「梶木様、岡田様、杉本様、どうかほかのお客様のためにも、お静かに願います」

 努めて冷静に、そして丁寧に頭を下げて頼み込むそらなを見て、ようやく男たちは黙った。

「……あーあ。しらけたよ。どうしてくれんだよ、なぁ?」

「いーよもう。場所変えようぜ」

「なぁハラ減らねぇ? メシ食いたいんだけど」

「俺は減ってねーよ。もうちょっと遊ばせろ」

 三人は舌打ちを残してブラックジャックルームを出て行った。

 そらなは深く息を吐き出して、「……親の金で遊ぶ甘ったれめ……」と誰にも聞こえぬように呟くと、彼らが床に捨てていったタバコの吸殻を拾い集めはじめた。

 そこへ、ひとりの女子が駆け寄ってきた。

「来てくれてありがとう、そらなちゃん。土屋さんが呼んでたよ? あとはわたしがやるから」

「ふー…………それじゃあ、お願いします」

 ポケットティッシュに乗せた吸殻を託すと、そらなは教室を出ていった。


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