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染谷と稲
一方そのころ、染谷義正は校長室にいた。
彼を監視するように雇用者から命令されている稲と一緒に。
ガラステーブルを挟んで、ふたりはソファに座っていた。
職員室にいたのでは児童たちに誤解されたりからかわれたりしそうで校長室に移ってきたのだが―――賭博に興じる騒々しさが遠い。重苦しい沈黙が満ちる校長室の中で、職員室に置いてあったカジノゲームの教本を読む染谷は、ちらりと正面に座る女を盗み見る。名をイネスというらしいマリベルのボディガードは、染谷を見るでもなく、しかしほかに何をするでもなく、背筋を伸ばしたまま、じっと座っていた。
染谷は再び本に目を落としたが、書かれている内容がまったく頭に入ってこなかった。ため息が出そうになるのを堪えて、テーブルに本を置いて立ち上がる。
「ちょっと、トイレに行ってきます」
だが案の定、伝わっていないのかわかっててそうしているのか、稲もまたソファから立った。
どこまで付いてくるつもりだろうかと、染谷は少しだけ不安になった。




