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CERVATOS  作者: 春戸 稲郎
六月
37/66

ギャンブルへの導き


 佐久間の連れてきた社長は、名前を土屋という六十代の男だった。

 佐久間をバカラルームに送り届けてから、土屋のホスト役を買って出たそらなが希望を聞くと、「ルーレットをしたい」と男は答えた。

「カジノといえばルーレットと思っていたから……素人考えかな?」

「いえいえ、そんなことはありません。ご案内いたします」

 そらなはルーレットのある教室へと案内し、その席のひとつに土屋を座らせた。

「さて……遊ぶには、どのくらい換金すればいいだろうか」

「佐久間会長のご紹介ですから、最初はサービスさせてください。一万円分遊んでみましょう」

「そうかい? ではお言葉に甘えて」

 そらなはルーレットを預かる児童に指示をして、十枚の専用のチップを土屋の前に置かせた。

 回る円盤と、羅紗の上に広がる赤と黒の格子状のレイアウトを前にして、土屋は気合を入れるように両手を揉んだ。

「さぁやるぞ。詳しいルールを教えてくれるかい?」

「かしこまりました。ルーレットには、赤と黒に分けられた1から36までと、0と00の数字があります。基本はこの三十八通りの中から、次に来ると思った数字に賭けることになります。配当は三十五倍です」

「うん? 当たる確率が三十八分の一なら、配当は三十七倍でないと不公平ではないのかい?」

 当たり前の疑問に、そらなは微笑みで頷く。

「それが控除率と呼ばれるものです。ルーレットでは0と00があるおかげで、メンバーに給料を払うことができるのです」

「なるほど。そういう仕組みでカジノは利益を得るのか。……しかし三十八通りともなると、どこに賭けていいのやら……」

 ボールが円盤を走り出し、周囲の客が思い思いに賭けはじめる中、土屋は動きあぐねていた。

「アウトサイドベットというものもあります。0と00は除外されますが、奇数か偶数か、赤か黒か、数の前半か後半かに賭けられます。それぞれの配当は一倍となっております」

「ふむ。それならまずは、赤に賭けてみようか」

 土屋はレイアウトの枠の中の、赤い菱形の描かれた升目に、千円チップを一枚置いた。

 直後、ノーモアベット、とルーレットのディーラーが告げる。

 客の注目を集める中、ボールが転がり落ちたポケットは、00の隣、赤の27だった。

「おめでとうございます」

「危なかったな! 00に落ちていたら赤でも黒でも負けだったんだろう?」

 どきどきしたよ、と興奮気味に語る土屋に、そらなは微笑む。

 彼の元に一倍の配当が渡され、次のゲームへ。

「数の大中小の三つのグループやレイアウトの縦一列に賭けると、配当は二倍になります。また、升目をまたぐようにして置いたり列を押さえるようにして置いたりすれば、二点、三点、四点、五点、六点と、チップ一枚でも一度に同時に賭けることができます」

「配当の倍率は〈36〉を割っていけばいいのかな? チップ一枚の二点賭けなら千円が一万八千円になるんだろう?」

 そらなはにっこりと笑って「そのとおりです」と頷く。

「よしよし、わかってきたぞ。それでは次は……また赤だ! 赤に二千円賭けよう!」

 土屋は先ほどと同じく、赤の升目に千円チップを二枚置いた。

 そのとき、背後からそらなの肩が叩かれた。振り向くと怜雄がいた。

「そらな……よりによって、とんでもない客が来たぞ」

 深刻な顔の怜雄がそらなの耳元である名前を囁くと、彼女は表情を変えた。

 だが、すぐに微笑みに戻すと、

「土屋さん、わたしは一旦外しますが、ほかのゲームで遊ばれたくなったときは、誰でも構いませんのでメンバーにお申し付けください。すぐにわたしが参ります」

「ああ、どうも丁寧にありがとう。……さぁ来い! 赤だ!」

 ルーレットに熱中している土屋に背を向けて、そらなは「行くよ」と怜雄に無表情で告げる。

 ふたりの背後で、ディーラーによって「赤の5」と告げられ、土屋が快哉を上げていた。


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